第19章 闇
そう言って、家を出ようとする。
あまりの混乱っぷりにバージルは戸惑いを隠せず、離れていく彼女の腕を反射的に掴んだ。
「どこへ行く」
「ライアの所!」
「そんな身体では駄目だ」
「大丈夫だから! 急がないといけないの…お願い、離して!」
しかしバージルの力は強く、そう簡単には離してくれなかった。
それがもどかしくてもどかしくて。
ライアの笑顔が頭に浮かんで消えて。
たまらなくなったは、渾身の力を振り絞って手を振り払った。
それに驚いたバージルは、あっさりと手を離す。
ダンテが少し怒ったような顔でバージルの隣に立ち、いさめるようにを見た。
「、駄目だ。ライアなら戻って来るからここにいろ」
「………っ」
涙が。
溢れた。
この瞬間にも、彼は。
ライアは。
「戻って来ない!」
泣き叫ぶ。
瞬きをする度、ぱたぱたと雫が落ちた。
これは揺るぎない真実。
あまりにも不公平な。
は、じり…とあとずさる。
それを止める者はいない。
「…戻って、来ないよ…」
かすれた言葉は、一体誰に言い聞かせているのだろう。
自分かもしれなかった。
彼なのかもしれない。
彼は優し過ぎるから。
今この瞬間にも、自己嫌悪に嫌というほど包まれているのだろう。
今までされてきた数々を恨みもせずに。怨みもせずに。
ただ憎むのは、自分だけ。
彼に全く非はないはずなのに、迷惑をかけてしまう自分を罵って、苦悩して。
そう、彼は。
にこんな迷惑をかけてしまう自分が、いい加減嫌になった。
そして、たった一つの指輪だけを残して。
一人で。
許されない。
そんなの、許されない。
許さない。
「ライアは、死ぬつもりなのよ!」
絶対に、許さない。
は後ろ手にドアを突き飛ばし、家を飛び出した。