第19章 闇
なるべく。
なるべく人が通らない所を選んで、ライアは歩いていた。
魔術で移動する手段もあるにはあったが、今魔術を使えばそれはこの力に体を許すのと同じことになってしまう。
そうすればどうなるか。
最悪の結果になるだけだ。
側に近づくだけで体調を狂わせる力。
最大値に近づいて、息が乱れていく。
───苦しい…
あの家を出た途端、一気に負がのしかかってきた。精神的な隙に容赦なくつけこんでいるのだ。
他人にこんな迷惑はかけられない。
狭く暗い、道とはいえない場所を進んでいく。
なるべく。
なるべく、人がいない所に。
それでも絶対に人とすれ違わないというのは難しく、もう幾人かの人の横をすり抜けて来た。
自分が通った途端体調の悪さを訴える人もいる。頭が痛い、肩がこる、気持ち悪い。
膨大な自己嫌悪。
こうして町を歩くのは何年ぶりかと思われるほどに久しく、ライアは唇を噛み締めた。
こんな力、なかったらよかったのに。
それが実現しない事だとわかっていても思わずにはいられない。
本当に不便。
本当にいらない。
いらないのは、力と私。
迷惑にしかならない負の存在。
ライアは周りを努めて見ないようにしながら、足を進める。
「…………」
息をゆっくりと吐いた。
背中が熱い。皮膚が焼けて剥がされるようだ。
しかしここで足は止められない。
なるべく人がいない所。
だいたいの目星はつけてある。
荒廃した港をずっと前に見つけていた。そこなら大丈夫だろう。
早く。
早く。
悪を振り撒いて、ライアは歩く。