第18章 3メートル
は涙が止まらなくて困った。
どうしてライアが謝るのか全くわからなかった。
そんな目に。
そんな目に遭っても尚、ライアは。
笑っていたのだ。
「新月が終わるまでここを出ようと思ったのですが、貴女に捕まってしまった。今からでも出ていきますね。こんなに長く私にあてられて、お辛いでしょう」
また少し離れて、ドアに向けて歩き出す。
は何か言おうにも嗚咽で声が出ず、顔を上げて、涙で歪む視界の中ライアの姿を捕らえた。
ライアはそのまま出ていくかと思われたが、ふと足を止め。
「そうだ…。これ、差し上げます。私を助けてくれたお礼、まだ何もしていませんでしたよね」
再び歩み寄って来て、3メートルの所でためらい、
しかし足を進め。
の側まで来て、ズボンのポケットをあさった。
は久しぶりにライアを近くで見たような気分になった。
端正な顔を見上げる。
そんな事ないのに。
昨日、風邪を引いたのかと言って心配そうに私の額に手を当ててくれたのに。
少ししてライアがポケットから取り出したのはシンプルなデザインの指輪だった。
銀色に光るリングにぽつりと、血が落ちたように紅玉がはめこまれている。
「新しいものでなくて申し訳ないですけど。私が、この世界で唯一お気に入りだと思えるものです」
そう言っての手の平に乗せようとしたが、しばしためらってその手を取った。
厳かに、ゆっくりと、左手の中指にはめる。
「二人には内緒にしてください。私も貴女も、危ないですから」
少しおかしそうに言って、ライアは身体を離し。
を掴んでいた手を、名残惜しそうにするりと離した。
「……ありが、と…」
少しだけ涙の収まった声でそう言うと、ライアは。
包み込むように
悟ったように
諦めたように
決意したように
穏やかに
緩やかに
夢のように
幻のように
見たこともない魅力的な笑顔で、笑った。