第18章 3メートル
「そうだったらどんなにいいでしょうね。しかし残念ながら、そうではない。
……これを」
言うと、ライアはおもむろに上着を脱ぎ始めた。
あまりにも思いきり脱ぐので、は視線を逸らす暇もなかった。
しかし、例えそんな暇があったとて逸らす事は無理だっただろう。
ライアが上半身の服を脱ぎ終えた時、目に飛び込んできた光景には目を見張った。
男にしては白い肌。少し長い黒髪が、肩に首に緩やかにかかり。
いつも肌を隠すような服を着ているので気付かなかったが、ライアの身体はとても細く見えた。体格のいいダンテかバージルと並べば差は一目瞭然だろう。
華奢ながらも身体は緩やかに隆起していて、筋肉が十分にある事を思わせる。
無駄な筋肉などない、整然された身体。は息を飲んだ。
しかし、今のにとってそれは全くどうでもいい事でもあった。
正面からでもわかる違和感。
本来なら、ないはずの。
不自然な。
「これです」
ライアはくるりと後ろを向いた。
何でもないように後ろを向いた。
は戦慄する。
黒。
いや、これはもはや黒ではない。
闇だ。
どこまでも漆黒。
どこまでも闇色をした、複雑で怪奇で幾何学に入り組んだ紋様が。
背中一面を。
後ろ半身全体を。
足りないと言うように前面までをも。
侵食するように、侵蝕しているように、覆っていた。