第18章 3メートル
「…………」
出て行ったバージルの足音が遠くなり、聞こえなくなり、は今更少しだけ怖くなる。
ライアと二人きりになると思い出してしまうから。
あの夜を。
ライアもそれに気付かない程鈍感ではない。
から3メートルほど離れたところから動かず、壁に背をついた。
「…大丈夫なの?」
は言う。
「何がですか?」
分かっているくせに何とか誤魔化そうとする。
裏返せば知って欲しくない事なのだろう、これは。
しつこく聞くなんてお節介かもしれない。だけど聞かなければならない。
貴方だから。
は少し顔をしかめる。
「ライア、何か隠してる」
「人は誰でも秘密のひとつふたつは持っているでしょう」
「すごく大事な事、隠してる」
「隠し事はみな一様に大事な事です」
横になっているせいで、ライアの顔がよく見えない。は上半身をゆっくりと起こす。
ライアは一瞬近寄ろうとしたようだったが、浮かせた足は床についたまま動かなかった。
少しだけ。
少しだけ、から離れた。
───何か苦しいな…
は浅く深呼吸をする。
なぜだろう。心臓が圧されてるような気分。
それを紛らわせるように口を開いた。
「言って。何を隠してるの?」
「…隠し事は、隠しているからこそ隠し事なのですよ」
「全部言えとは言ってないの。その事だけ、話してくれればいい」
がここまで食い下がるとは思っていなかったのだろう。
ライアは戸惑ったように腕を組んだ。
「その事とはどの事ですか? 私には隠し事がありすぎてわかりませんね」
皮肉めいた口調。苛立っている。
聞いて欲しくないと、言いたくないと、はっきり口にしないとわかりませんか?
気持ちが焦る。
余りにも、要点を突いていて。
「……なら…」
はライアを見据えた。
「なら、私がはっきり言う。ライアの中の何かが削って削られているような感じがするのは、気のせいなの?」
「………!」
会って、初めて。
ライアが恐怖に満ちた驚きの表情を浮かべた。
それはもうあからさまに。
見間違えようもなく。
は確信する。
時々感じていたこの感覚は、間違ってはいなかったのだと。