第17章 熱
案の定台所にはバージルがいて、冷蔵庫から野菜を取り出していた。
見慣れたその背中に声をかける。
「おはよ」
「あぁ」
バージルは顔だけ振り向くと、に返事を返す。
は彼の隣に立ち、水道で手を洗った。
「手伝うよ」
「すまんな」
バージルは、切ろうとしていた野菜をに任せるとまた冷蔵庫へ向かい、卵を4つ取り出した。
両手に2個ずつ持って扉を閉め、片手で次々と卵を割り手際よく目玉焼きを作り始める。
最近ではこれが常で、はバージルを手伝いながら料理を覚えているのだった。
───料理できる男の人って格好いいよねぇ…
慣れた手つきのバージルを見ながらは思う。
彼の横顔は手つき同様余裕の表情で、全て分かっているように迷いなく動く。まるでプロの料理人だ。
ダンテならば絶対にあり得ない光景である。
今更ダンテに料理を作る事を望んではいないにしろ、ダンテも料理ができたら良かったのに、と思う事は幾度かあった。
だからだろうか。
料理をするバージルには、ひどく惹かれる。
───…はっ
料理の様子を見ているフリをしてバージルに見とれていたは、我に返ると慌てて野菜に手をつけた。
───バージルにみとれるなんて…
自分で自分が恥ずかしくて、知らずうつむく。
ダンテへの申し訳ない気持ちが胸の中で揺れた。
「…………」
隣でバージルがおかしそうに笑っている。それに気付く事なく、は野菜を切っていった。
と、その時。
「…くしゅっ」
は横に顔を向けると、本日2回目のくしゃみをした。
バージルが心配そうに顔を向ける。
「寒いか?」
「ん…少し。でも大丈夫」
笑顔でそう答えたの顔は少し赤くて、バージルは眉をひそめた。