第16章 冷雨
見つけた。
絶え間なく走り息も荒くなるダンテに、ようやく薬屋の看板が目に入った。
ここまで来るのに全く姿がなかった為、もしかしたら別の道を行ったのかと不安になったが。
薬屋の壁にもたれかかる小さい姿に気付く。
だ。間違いない。
しかし、ダンテが走り寄ろうとしているうちに、は身体を浮かせて歩き出そうとした。
走って帰る決心をしたらしい。
なるべく屋根の多い通りを選んで、ダンテとは反対方向へ向かい始める。
───おいっ! 待てよ!
一瞬焦るが、小さなとダンテでは歩幅がまるで違うのだ。
近づくごとに頬の緩みを抑えられない。やっと会えた。
ダンテはすぐに追いつき、屋根の下を歩くに。
「…うわっ!」
走った勢いのまま、後ろから抱きついた。
「えっごめんなさ…あれ?」
わけがわからないままとりあえず謝り後ろを向こうとすると、の視界に見慣れた赤いコートが飛び込んだ。
誰であるかは顔を見ずともわかる。
目を見張った。
「ダンテ…? どうしたの?」
「迎えに来た…」
迎えに来てもらった方よりも、迎えに来た方が濡れている。
はそれに瞬いた。
肩で呼吸をする身体。
傘があるのにコートはずぶ濡れ。
銀色の髪は雫を浴びて更に輝いて。
泥が飛び散ったズボン。
荒い息。
傘の意味もなく、濡れているコート。
理解にさほど時間はかからない。
「……ありがと」
嬉しくなって、後ろから回された手を握った。
「そんな急がなくてもよかったのに」
「に寒い思いさせたくなかったんだよ。
ほら! こんなに手冷てーじゃねえか」
そう言って、ダンテはの手にはあっと息を吹きかけた。
白い息が手を包み一瞬暖まるが、すぐに冷える。
「ダンテの方が冷たいよ!」
包まれた手の冷たさに今度はが息を吐きかける。
「俺は走って来たから暑いくらいだぜ」
ダンテは身体の表面が思ったより冷えている事に驚くが、正直どうでもよかった。
の前では全てが飛ぶ。
「…俺の薬買ってくれたんだってな。ありがとうな」
「うん。バージルに聞いたら、あれ結構強いお酒だって言ってたから」