第2章 悪魔の店
調子に乗っての肩に触れると、彼女はびくっと視線を合わせて来た。しかし目のやり場に困ったように視線が揺れ、しどろもどろになって続ける。
「それで、あの…報酬、と言っていた件なんですけど」
───あぁ。
んなもん、お前をここに連れて来る為の口実なんだけどな…
報酬を払ったら行ってしまうのだろうか。せっかく会えたのに。
そう、ダンテが心の中で残念がっていると。
「私、別の所から落っこちて来ちゃって…こっちの事、何も知らないんです! だから多分、お金も持ってないかと…」
彼女は突拍子もない事を言ってきた。
「……は?」
───あぁ、やっぱりそういう反応になっちゃうよね。私でもそうだと思う。
他人事のように胸中で同情しながら、はここに来た経緯を恐る恐る説明する。
「───つまり…」
事務所の中では、ダンテ、バージルと向かい合って座っていた。
テーブルにはバージルが淹れてくれた紅茶が置いてある。
マグカップに注がれた紅茶は温かく、ずっと緊張しっぱなしだったはそのぬくもりに安心して、泣きそうになってしまった。
バージルはこれを考えて、温かいのを淹れたのだろうか。
「道を出たら突然、こっちに落ちて来たって。そういう事か?」
ダンテの問い。
はマグカップを持ったまま、うつむき加減で頷く。
───ダメだ。こんな変な事、信じてもらえるわけないよ…
二人の視線が怖くて顔が上げられない。
沈黙に耐えられず、膝の上でぎゅっと拳を握る。
───でも、信じてもらえなかったら…他に行くあてもないし…。
信じて欲しいと切に願う。
外に出て一人になるのは、たまらなく怖かった。
しばしの沈黙。それが、には痛いほど苦しい。
二人の顔が怖くて見られない。
脳裏にちらつくのは、外で会った人ならざる生き物。
大体、明らかによその人間である自分を信じ、快く匿ってくれる人間がいるのだろうか。
少なくとも日本で考えるならば、可能性は低く思えた。
それが外国だからといって考えが変わるとは思えなくて。