第14章 割れたティーカップ
「あいつが怖いか?」
が落ち着くのを待ってからそっと尋ねる。
少しの沈黙ののち、小さくは答えた。
「怖い…。怖い…です。手の感触とか、声とか、全部…あの時と重なって…」
怖い、と。
ライアと目を合わせると思い出してしまう。あの時の何もかもを。
恐怖が走る。
動けなくなりそう。
そんなのはライアに失礼だとどこかで思うけど。
そんな自分を、甘過ぎると叱る自分。
「心配すんな。俺がずっとについててやるよ。メシ作る時も、掃除してる時も、寝る時も、何してたって側にいてやる」
ダンテが強く言う。
それには戸惑う。
「…だって、ダンテ仕事は…」
「10億入ったんだぜ? 仕事やめてもいいくらいだ」
冗談と本気をないまぜに。
の為にだったら、仕事なんて。そんなのしてられるか。
するとは、顔を上げてダンテを見た。
目に涙がたまっていたが気持ちと共に落ち着いたらしく、泣いてはいない。
それにほっとする反面、うるんだ瞳で見上げられたダンテの鼓動は一気に跳ねた。
いや駄目だ。は今泣いてんだぞ。傷ついてるのに笑ってんだ。
抑えろ。今こんな事したら、また怖がらせてしまう。
ダンテが自分と戦う中。
の小さい唇が薄く開く。
「………ほんと?」
気付くとダンテは、に唇を重ねていた。
いつの間にと思ったが、止めない。
まずいとも思ったが、止められない。
───全く…といると俺の身体は歯止めが効かなくなりやがる。
の行為はダンテの心の根を揺さぶり、本能が身体を動かしてしまう。
こんなのは初めてだったが、別に悪い気はしなかった。
それだけが好きだという事だ。
本気だという証。悪いはずがない。
あまり深くやると本気でが怖がりそうで怖い。
ダンテは唇を離すと、の額に自分の額をくっつけた。
「ホントだ。ずっとついててやる。だからもう泣くな」
「……うん。ありがと」