第14章 割れたティーカップ
キッチンに入ると、が紅茶の為のお湯をわかしていた。
側には紅茶の葉とポット。
コンロの前に立ち、お湯が沸騰するのを待っているように見えたが。
全く動かない。じっと見つめている。
ダンテが入って来たのにも気づいていないようだった。
「………」
やっぱりな。そういう奴だろうな、お前は。
ダンテは静かにに近寄った。
そっと、なるべく驚かせないように、後ろから彼女の肩に腕をのせる。
「!?」
はそこでようやく気付いたようだった。
びくりとして思わず振り返り、そしてその目には。
「だと思った」
「…あっ!」
気付いたは慌ててうつむき目をこするが、もうダンテは見てしまった。
「一人で泣くなんてずるいぜ」
髪に唇を寄せる。はくすぐったそうに身を縮めた。
いつものように優しく笑みをこぼしているがそれは偽りで、心の底には恐怖がある。
ついさっきの出来事なのだ。
記憶は鮮明に、の恐怖を駆り立てていた。
「だっ大丈夫ですよ! これはあの… 今あくびをして……」
無理矢理取り繕う。無駄だってわかってんだろ?
俺に隠し事なんざ10年早い。
言葉を途中で遮り額に手をやる。の頭を自分に押しつける。
「俺の前まで無理すんな」
短い言葉。
しかし、今のにはその温かさが全身に駆け巡り。
さすがダンテ。すぐばれた。言い当てられた。
駄目だなあ。
また泣きそうになる。
「……………」
泣きたくない。
あ、でもやっぱ駄目。泣いちゃう。
でもダンテに泣き顔を見られたくなくて。
は黙ってくるりと振り返ると、うつむきながらダンテに抱きついた。
ダンテは黙ってそれを受け止め、抱き締める。
安心させるように背中をゆっくりさすってやる。
震える小さな身体。
嗚咽を抑えているものの揺れる肩。
今気づいてよかったと、ダンテは心から思った。
気づいていなかったら、を一人で泣かせる所だった。