第13章 約束
やがて。
ダンテが、顔を覆っていた手を離した。
の腕に、ダンテの腕が重なる。
掴む。
強く強くすがるように、傷みなどお構いなしに。
「俺は…がいなくて、かわりに変な女と過ごさなきゃならなくて、…死にそうだった」
「うん…私も辛かった。辛くて、痛かったよ…」
「…………」
ダンテは目線を上げてを見た。その朧気な視線が交わると。
は目を見開く。
ダンテのアイスブルーの瞳から、まるで氷が溶けたような。
澄んだ池のような。
透明な。
「涙……」
ぬぐいもせず隠しもせずただ流れる様は、とても綺麗で。
思わず目を奪われる。
あぁ、こんな時でも私はあなたを愛おしいと思ってしまう。子供っぽくて素直で、かわいいひと。
「俺は、の事でこんなに気持ちが狂いそうになるなんて…思ってもいなかっ…」
ダンテの言葉が途切れた。全てを言わせず、は吸い寄せられるようにダンテの涙に唇を寄せていた。
涙の味。
氷のような瞳から流れた雫はとても温かかくて。
───涙、しょっぱい…
それはまるで、ダンテもと同じ人間でもあるのだと語っているようで。
この綺麗で美しい悪魔の涙を無駄にしたくないと言うように舌ですくうと、はダンテの頬に手を添え、唇を重ねた。
ゆっくりと。ゆっくり。
涙の味をダンテに伝える。
「ダンテが好き…大好きだから……」
だから、泣かないで。
「……っ」
ダンテはくしゃっと顔を歪め。
何もかもがどうでもよくなった。
闇に包まれた夜の空がまるで昼間のように眩しく見えた。
触れずには抱き締めずにはいられない。
苦しい。狂おしい。
どうしたらいい。身の内を暴れ回る激情。止まらない。
を抱き締める。気持ちを納めるように。
「愛してる…」
「私も。ダンテを愛してる」
再度重なる唇。ダンテの強い意識。
今までのどの口付けよりも荒々しく優しく甘い。
はそれに応え、自ら舌を差し出す。
それをダンテがすくい取り、吸う。
確かめるように互いを貪り絡め、唇を離して見つめ合い。
は微笑みダンテは苦笑し。
その目にはもう涙はなくて。