第1章 終わらない帰り道
ダンテはその必死ぶりがあまりに可愛くて、笑いそうになってしまった。
いつも相手にしている女達なら、ここぞとばかりに身体を密着させてしなだれかかるか、もしくはダンテに恐れをなして礼もそこそこに逃げ出して行くのに。
それなのに、ものすごい純粋な反応を返してくる。
あの悪魔をわずかな時間で倒したダンテに、少しの疑問も恐怖も抱いていないのだ。
誤解を解こうとして泣きそうになっているを見て、ダンテは耐えきれず吹き出してしまった。
「あーおもしれ…まあお前確かに変な格好してるけどな。悪い奴じゃない事くらい、俺にだってわかるぜ」
「あ…ごめんなさい」
は笑われて恥ずかしくなり、赤くなってうつむいた。
だから見えなかった。
うつむくを見る彼の目が、優しい笑みを微かに浮かべているのに。
先程悪魔に見せた凄絶な笑みからは思いもしないような、仄かに愛しさが込められた笑み。
その思いには、ダンテ自身さえまだ気づいてはいない。
すっと、の前に手が差し出された。
黒い手袋をした、大きな手だ。
今みたいな死線を幾つくぐりぬけて来たか知れない手。
大きな剣と双銃を軽々と振り回し扱うそれは、には綺麗な手に見えた。
その手を見つめて視線を上げると、彼はまだおかしさを含んだ、低く心地いい声で言った。
「その様子じゃ大丈夫みたいだな。立てるか?」
は頷くと、彼の手を取って立ち上がる。
少しふらついたが、彼の手がを優しく支えてくれた。
「お嬢ちゃん、名は?」
「…。。」
「また妙な名だな。でいいか?」
「…うん」
ちょっと気恥ずかしくなってうつむく。
「俺はダンテだ。よろしくな。……で、この俺に仕事をさせたって事は…少なからず報酬はあるんだろうな?」
「へ…?」
突然言われた言葉に、はわけがわからずダンテのにやりとした顔を見上げた。
──報…酬?
「ま、ここで立ち話もなんだし、店入れよ。中でゆっくり話そうぜ」
ぼんやりするにはダンテが言い、親指で背後を示す。
はつられてその建物を見上げた。
Devil May Cry と書かれた看板が光る建物を。