第8章 彼の見えざる手
漸く姿を現した太宰に気付き、駆け寄っていく薄雪。
「遅いです、兄様」
「そう?そんなに経ってないと思うけど」
何事も無かったかのように薄雪の手を取って歩き始める。
「………○○さんは?」
「さぁ?薄雪が会ってないなら他の道から帰ったんじゃない?」
「………。」
薄雪の顔が曇る。
その顔を見て。
「そんなに彼が心配なのかい?」
更に、俯いたまま反応を示さない薄雪に。
太宰の苛立ちが表に出てくる。
「薄雪」
「………私の何が兄様達の怒りに触れてしまったのか解らないから……」
漸く紡がれた言葉。
「は?」
思わぬ答えに立ち止まる。
「また同じことをしてしまったらどうしようかと不安で」
キュッと繋いだ手に力を込めて薄雪はゆっくりと顔を上げた。
「……………。」
動かずに見つめ合う2人。
「……………はあ~~~……」
「!?」
先に動いたのは太宰だった。
盛大に溜め息を着いて空いている方の手で頭を抱える。
その仕草に薄雪は更にシュンとする。
「兄様……」
「薄々は判っていたけど、未だ分かってなかったの」
「!………すみませっ…!」
グイッ
繋いだ手を引いて薄雪を抱き締める。
「あのっ…兄様…!?」
「薄雪、もう一度訊くよ。『そんなに彼が心配なのかい』?」
「彼って…○○さんですか?」
「そ。態々、中也に命令してまで見逃してあげたじゃん」
「それはナオミさんのご学友だから、死んでしまったらナオミさんに顔向けできません」
「他意は?」
「ありません」
キッパリと云った薄雪の声を聞き終えると太宰は腕の中から薄雪を解放する。
「中也にとって薄雪は可愛い妹だよ。今までも、これからも、ね」
「嬉しいかぎりです」
「私は違うけど」
「えっ!」
ヘラッと笑って云った太宰に落ち込みながら、歩き始めた太宰に付いていく薄雪。
「知りたいなら後で教えてあげる」
「知りたいでっ……!」
パッと。
太宰の顔を見上げる。
そして気付いたのだ。
「……治兄様」
意地悪な顔をしていることに。