第2章 何もない日常
太宰が入社してから早2年――。
最近では新たな社員として中島敦を迎え、更に賑やかになった探偵社。
本当に自分を連れ戻す目的では無かったんだ、と
漸く薄雪は太宰の云うことを信用したのだ。
無理もない。
薄雪は此の探偵社の中で唯一、知っているのだ。
太宰治と云う人物が如何なる者かと云うことを――。
「薄雪さんー!助けて下さいー!データがあ!」
「…春野さん。また猫の画像を観てましたね?」
ギクッ
「余所見したりするから何処にやったか分からなくなってしまうんですよ」
薄雪がカチャカチャと操作すると直ぐにパッと何かが現れる。
「有難うございますー」
「本当に薄雪さんって何でも出来ますのね」
谷崎の妹、ナオミが薄雪に近寄ってくる。
「何でもは云い過ぎです。出来ないことは本当に出来ませんよ」
「例えば?」
ナオミの質問にうーんと考え込む薄雪。
「そうですね…休日の時間の有効な使い方とかでしょうか」
「そう云えば休日は何されてますの?」
「私は猫とずっと遊んでます」
「春野さんらしいですね。私は家でボーッとして過ごしているか図書館に行くかの2択ですね」
「あ…」
薄雪の返答を聞いてナオミと春野がハッとする。
病弱だと訊いていたからだ。
「ね?詰まらない過ごし方でしょ?」
クスクス笑って云う薄雪の真意が読めずに返答に困っている2人。
「何だい?女子だけで会話なンて愉しそうだねェ」
「与謝野さん!」
白衣の天使が現れたのだ。
「お疲れ様です。今お茶をお持ちしますね」
直ぐに離席をしてお茶を用意しに行く薄雪。
「で?何の話だい?」
「薄雪さんの出来ないことの話をしてまして――」
ざっくりと説明を受ける与謝野。
「何だ。そう云うことかい」
そう云った瞬間に薄雪が戻ってきて、
律儀にナオミと春野の分まで用意されたお茶を配る。
「薄雪、次の休日暇かい?」
「え?あ、はい。特にすること無いので」
「じゃあ妾と買い物でもどうだい?」
「良いんですか?ご一緒して」
「勿論。アンタ達も行くかい?」
「「行きます!」」
こうして薄雪の次の休日はアッサリと決まったのだった。