第6章 争いの日々の中で
「んぅ………」
鳥の囀ずる声。
何時もの習慣の賜物か、朝日が昇って暫くして。
薄雪は眠りから覚めた。
「!」
ボーッとしていた頭も急に覚醒した。
身体が、動かないのだ。
否、厳密に云えば動きは出来るが。
行動することが出来ない。
まるで。
誰かに抱き締められているような―――――
「目が覚めたかい?」
ビクッ。
突然、降ってきた声。
「………。」
そろーっ。
薄雪は聞き覚えのある、声のした方向をゆっくりと見た。
「善く眠っていたね」
ふあーっと欠伸しながら声を掛けてきた人物は薄雪に回していた腕をどかして、頭を撫で始めた。
「……………。」
その人物の顔を見て、フリーズしたままの薄雪。
思考が追い付かないようだ。
そんな薄雪に意地悪な笑みを寄越しながら口を開く太宰。
「――――次は襲うからね、薄雪」
「!?」
ガバッと起き上がってベッドから抜け出し、距離をとるまで僅か3秒。
壁際にピタリと貼り付いて太宰を見ている薄雪の顔は真っ赤だ。
その光景をクスクス笑いながら見ると、太宰もゆっくりと上体を起こした。
「大体、薄雪は昔から危機感が足りないのだよ」
「………仕方ないじゃないですか」
本日、漸く発した声。
若干、震えが混じっている。
「仕方無い、ねぇ」
「!」
太宰がゆっくりと薄雪の方に歩み寄る。
逃げたいのだろう。
じりじりと迫り来る恐怖に右に逃げるか左に逃げるか。
キョロキョロしながら返す。
バッ!
右に逃げた薄雪。
だが、成功はしなかった。
「ホント、手の掛かる娘だね」
「~~~っ!離して下さい~!」
腕を捕まれ、耳元で呟く様に話し掛けられビクッとする薄雪。
その反応を愉しそうに見ている太宰を涙目で睨み付けた。
「まあ昨日は私も苛め過ぎたと反省はしているよ」
ピタッ
薄雪は抵抗を止めた。
「質問は日を改めて聞いてあげるから」
「………。」
ぽんぽんっと頭を撫でると薄雪はコクッと頷いた。
あと、と付け加えられ薄雪は再び太宰を見上げる。
「そろそろ薄雪にも動いてもらうよ」