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【文スト】永久に枯れない花の色は

第5章 真実


―――

スー……スー…。

薄雪のベッドの上。
自分の腕の中で規則正しい寝息を立てて眠っている薄雪の顔を見て、太宰は盛大に息を吐き出した。

「自覚が無いということがこうも恐ろしいこととは……」

完全に眠っている薄雪の額に唇を落としながら、抱き締め直し、数ヵ所外れた釦のせいではだけた胸元を掛け布団で覆う。


行為は成されること無く終わった。
元より、太宰にはそんな気など無かったのだ。

無かったのだが―――


『治兄様に嫌われたくないだけなのにっ………』


よっぽど黒い太宰が怖かったのか。
はたまた、本気で嫌われたと思ったのか。
泣きながらそう云った薄雪の言葉や仕草は
太宰の理性を破壊するには充分すぎるものであった。
襲い掛からずに済んだのは、
ギリギリ残っていた理性―――
『私も薄雪に嫌われたくは無い』と云う意志が脳裏を過ったからだ。


手の拘束を解いて、涙を拭って、抱き締めて。
漸く『嫌われてない』と理解してくれた頃には安心したのか、そのまま眠ってしまったのだ。



薄雪が訊きたいことなど判っている。

「何故、マフィアを抜けたのか」

「何故、あのタイミングで外に行くことを促したのか」

「探偵社で再会したのは偶然か」

そして、

「マフィアを抜けた原因の1つは自分のせいではないか」

他にも色々と在るだろう。
今まで訊いたことが無い故に、山ほどの訊きたいことが。



「……男の懐で無防備に寝ると如何なるか教えないと…抑も、部屋に上げないところからか」



識っているだろうが、知らないだろう。

恋愛なんてしたこと無いのだから――。


「寄ってくる男達を凡て払っていたけれど、薄雪に自覚が無いんじゃねぇ」


やれやれ。困った娘だ。

大きく溜め息を着く。

そして、そんなことよりも差し迫った問題――



「保つかなぁ―……私の理性」


しがみついて離れない薄雪に、嬉しいけど困っている太宰は小さくぼやきながら目を閉じたのだった―――。




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