第5章 真実
「薄雪さんは大丈夫でしたか?」
「ええ。何事もなく」
敦に問われて笑顔で答える薄雪。
手に持っているのは茶菓子の入った紙袋だ。
「……此れは?」
「お茶菓子です。この先の部屋の方にお出しするように太宰さんに頼まれまして」
「!」
今し方、出てきた部屋の方を差して答えた薄雪に思わず眼を見開く。
この先には居るのは捕虜。ポートマフィアの人間だ。
先刻、話してきたとはいえ幾らなんでも一事務員が相手すべき人間ではない筈……。
「危険です。僕が……」
「少し休まれた方が良いですよ」
「………え」
敦の提案に重なるように薄雪が云う。
「少し顔色が優れませんよ。今からが大変なのでしょう?」
「……。」
顔色が優れないのは疲れからではないが、何も知らない薄雪に云う必要は無いと判断した敦は「そうさせてもらいます」とだけ云って去っていった。
その背中を見て一息つく薄雪。
「治兄様の教え子は中々に大変な子ばかりですね」
苦笑して呟くと、目的の部屋へと向かったのだった。
コンコンコン。
茶菓子を持っていくように太宰に云われたが、誰が幽閉されているかまでは教えてくれなかった。
反応が返ってこないため、「失礼します」とだけ云って中に入った。
「今日はよく人が来る………っ!」
「!」
うんざりした顔で此方を見た捕虜と、その姿を見た薄雪は同時に同じ顔をした。
「紅葉姐様……」
「薄雪……本当に薄雪かえ?」
紅葉は読んでいた本を投げ棄てて薄雪の方に近寄り、抱き締めた。
「姐様……苦しいです」
「嗚呼…薄雪。息災じゃったか?太宰に虐げられたりしておらぬか?」
「!」
本気で心配している顔で、声で。
紅葉は薄雪に問う。
「私が此処に居ることを御存知だったのですか?」
「無論じゃ。『太宰の元に』居ることは判っていたからのぅ」
「………え……」
ポカンとしている薄雪に、何も分かっていないことが判った紅葉は苦笑した。
「久し振りじゃ。茶でも飲みながら話をしようではないか」
「はい……」
頭を優しく撫でられて。
薄雪は微笑みながら返事をした。