第4章 争いの幕開け
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「大規模な戦争、ですか」
温かいご飯を食べながら太宰が話す言葉を確り聴いている薄雪。
「そ。もう既に連中もマフィアも動き始めているようだね」
薄雪が御茶のおかわりを注ぐ。
「間もなく我々、探偵社も参戦する事になる」
「……。」
太宰が手を止めたのと同時に姿勢を正す薄雪。
「想像はついていると思うけど中也に遇ったよ」
「会ったの間違いでしょう?」
「鋭いねぇー」
お茶を啜って、薄雪に向き直す。
「連れ戻す命は出てないって」
「!」
薄雪が眼を見開いた。
「良かったじゃないか。これで堂々と街を歩ける」
「……裏切り者の末路は変わらないでしょ?」
「そんなことを一々怯えていたら何にも出来ないよ」
「それはそうですけど」
「捜してないのだから薄雪のことなんてどうでも善いってことでしょ」
「そう思って頂けてるなら嬉しいですけど…」
未だ不安なのか。
下を向く薄雪にやれやれと息を吐く太宰。
「薄雪」
「はい。なんでしょうか」
「戦争への加担を禁止する」
「!」
薄雪が顔を上げた。
「何があっても手を貸さない、と云うことでしょうか」
「そ。私が許可を出すまで手出しは無用だ」
「兄様の命ならそうしますが…狙われるのは事務員なのでは?」
「恐らくね。私が相手ならば間違いなく其処を付く」
「そうですか」
「万が一、窮地に陥った時だけ手を貸すことを許可するよ」
「そうならないように努力します。『今』は動くべきではないと云うことでしょうから」
「理解が早いねー」
「昔の教育係の方が厳しかったものですから。治兄様ですけど」
「うふふ。自分の意に沿う部下が欲しかったから薄雪で練習してたのだよ」
「只の練習台で、あの扱いですか」
「まあ居なかったけどね。薄雪以外に隣に置いておきたい人なんて」
「え…」
薄雪の反応にニコッと返す太宰。
「じゃあ私は部屋に帰って休むとしよう」
「あ…はい。御休みなさい」
「御馳走様」
そう云って紙切れを渡すと太宰は去っていった。
「?」
紙切れに視線を移す。
「……。」
薄雪は携帯電話を取り出し、操作し始めた――。