第3章 慌ただしくなる日々
探偵社の事務所が襲撃を受けることなど日常茶飯時と云えばそうであるが―――。
「真逆、黒蜥蜴が襲撃してくるとは思いもしませんでした………」
「薄雪の逃げ足も衰えたものじゃないねぇ」
「褒めてます?それ」
はあ、と溜め息を着いていると太宰が頭をポンポンと叩いた。
「勿論だとも。探偵社の事務員とは思えない動きだと思うよ」
「見てないけど」
「見てないくせに善く云いますね」
矢っ張り。
そう小さく呟いて、薄雪は小さく溜め息を着いた。
「で?何買うの?」
「今日は鶏もも肉とブロッコリーが安いようなのでグラタンにしようと思いまして、その材料を」
「薄雪が?グラタンを作るだって?」
「何を失礼なことを思ったかは訊きませんが、云うほど難しくないんですよ」
「成る程。そう云うことか」
ピリリリリリ…
納得したと同時に鳴り響く着信音。
見ずとも相手など判りきっていた。
「あまり仕事をサボってばかりですと国木田さんの胃に穴が開いてしまいますよ?」
「其れを見るのが楽しいんじゃない」
「はあ……治兄様は相変わらずですね」
うふふ、と笑いながら電源を切る太宰。
「却説、仕事しようかな」
「……今、電源を切った人が何を云ってるんですか」
「国木田君の知らぬ場所で働いてこそ弄り甲斐があるってもんだよ」
「そうですか……全く理解出来ません」
「ふふ。それじゃあ私の分も宜しくねー」
「判りまし……え。」
ピタリと止まり、去っていった太宰の方を慌てて振り返る薄雪。
しかし、
「本当に……食べに来るんですか……?」
そう訊ねたい人物の姿は既に無かった―――。
―――
「薄雪。買い出しの際、太宰を見掛けなかったか?」
「いいえ。残念乍ら」
「そうか…」
「お役に立てず済みません」
「いや、気にするな。彼奴の放浪癖など今に始まった事ではないからな」
「あはは……」
胃を押さえながら自席に戻る国木田に苦笑するしか出来ない薄雪だった。