第26章 そして卒業 #sideニノ
解散したグラウンドを抜けて帰ろうと歩き始めたオレに…
呑気な声が降りかかる。
「野球部、青春だね~」
「なんすか…松本先生」
保健室の窓を大きく開けて、
オレを見下ろす松本先生が… 今はちょっと鬱陶しい。
「なぁ…寄ってく?」
「は?何でオレがっ?」
からかうような笑みが、
途端に優しい顔に変わって…戸惑ってしまう。
「いつもねぇ、いい豆用意してたんだわ……」
「いい豆…?コーヒー?」
「誘ったんだけどね。
振られたから代わりに付き合え二宮」
返事もしないのに…姿が見えなくなって。
窓の外まで、コーヒーの良い香りが漂って来た。
仕方なく保健室に寄るとマグカップを手渡される。
一方的にぶつかるカップ。
「じゃ…失恋した者同士、乾杯」
「何言って…」
「……ふふ」
何となく、だけど
いつもと違う松本先生の雰囲気に、何かを察する
コーヒーを口に含むと
苦くて…
だけど
…悪くない。
「お互い相手が鈍感だと苦労するね」
「ですね」
保健室の窓から覗いた景色は、グラウンドが遠くまで見渡せて
夕焼けに沈み始めた空が、
オレンジ色で綺麗に映し出されていた。