第18章 先生と生徒 Side櫻井先生
何を期待してたんだろう。
彼女を傷つけておきながら…
それでも必死に、自分に気に入られようと
ひたむきな眼差しを送る彼女を期待してた。
エゴ以外の何者でもない。
教室に入って…
号令を掛ける彼女を、視界の端に写した。
だけど、 ひたむきどころか、
彼女は俯いたままオレを見てもなかった。
ドクンドクン…と、血の気が引いて…
動揺してる自分に、戸惑う。
子供じみた意地悪が、
結局、ただでさえ近づけない距離を、さらに遠ざけた。
「……で、そんな顔してたんですか」
「すみません、つい」
当たり前のように立ち寄った保健室で
いつもの如く入れ立てのコーヒーをご馳走になる。
唯一、全てを知ってる松本先生を前に…つい、本音を漏らしてしまった。
松本先生は、きっとカウンセラーなんか向いてるはずだ。
「でも、櫻井先生がね。
優しくて格好いいって人気あるのに…意外でした」
「買い被りすぎですよ。優しくなんかありません。何でしょうね…」
想いを告げられないなら、受け入れる気がないのなら。
もう、諦めるしかないのに…
それが出来ないくせに、繋ぎとめようと必死になってしまう。
彼女と視線さえ合わなくて、こんなに苦しいならいっそのこと、
『卒業』まで待って欲しいと、告白してしまおうか…なんて。
ホントどうかしてる。
「好きなんですね」
松本先生が、優しく笑ってそう言葉にした。
「ホントに…どうかしてますよね」
苦笑いでそう応えるしかなくて。
こんな気持ち…今までの恋愛がなんだったのかと考えてしまうくらいに
君が…愛しい。