第2章 先生と生徒#side櫻井先生
ベッドの隅にしゃがみ込んだ俺は、
目配せしてくるその人に、ぶんぶん首を横に振って、×と腕で書いて見せた。
「櫻井先生?来てないよ」
『え~!確かにこっちの方に』
「突き当たりの視聴覚室は?」
「あ、そっちかも!みんな行こ~
じゃーね、松本先生!」
笑顔で手を振る松本先生が、ドアを閉めた途端
一気に肩の力が抜けて…思わず、床に座り込んだ。
「もう行きましたよ」
「助かりました」
「相変わらずモテますね。櫻井先生は…」
笑いながら、コーヒーの入ったカップを渡してくれる。
「ありがとうございます。
休み時間の度に捕まるんで」
「せっかくだから、
チョイチョイ上手く遊んでみたらいいのに」
「な、何言ってんですか!松本先生!教師たるもの!」
思わず大きな声を出すと、
松本先生は相変わらず笑いながらオレを見た。
「冗談ですよ」
「え…あぁ…冗談、ですよね」
恥ずかしくなって、コーヒーを口に含む。
砂糖もミルクも入ってないブラックコーヒーは
苦くて…
自然と…あの出来事を思い出させた。
「実は、オレ…」
「ハイ?」
白衣姿の松本先生の後ろ姿に話し続ける。
「生徒に…手出した事、あるんですよね」
「ぶは…っ」
「あ!大丈夫ですか!」
コーヒーを吹き出した松本先生に、ポケットから取り出したハンカチを渡した。
「いや、大丈夫です」
オレの向かいの椅子に座ると、
松本先生は珍しく悪戯な顔で笑って、えらく楽しそうだ。
「さっき生徒から
助けてあげたでしょ?」
「はい…?」
「お礼に、櫻井先生の
イケナイ恋の話聞かせて下さいよ」
「イケナイって…」
松本先生の目力には、
頷くしか出来ない威圧感があって
オレは仕方なく…
いや、
ホントは誰かに聞いて貰いたかったのかも知れない。