第12章 先生と生徒 #side 櫻井先生
視聴覚室での授業を終え
集めた課題のプリントに目を通す。
教卓の前を次々に通り過ぎる生徒の群
ざわついた教室が、徐々に…静かになった。
みんな昼休みに入ったのだと…
教室には自分以外誰もいないものだと
だから『せんせ…』
小さくオレを呼ぶ声に、
ビクッと…
自分自身驚く位リアクションしてしまった。
「なに…いたの?」
ゆっくり顔を上げたけど…彼女の声が聞こえるだけで……
プリントの束を机に置いて、
椅子から立ち上がり声が聞こえた席の方へ向かう。
机の下、椅子の脇にしゃがみ込んで……まるで、かくれんぼしてるみたい。
「何してんの?
お昼食べないと午後の授業間に合わないよ」
訴えるような目線を感じて……慌てて逸らした。
背中を向けて、教卓に戻ろうとしたオレに、
また、『せんせ…』って。
振り向いてしまってはダメだって
ダメなんだって
握った手のひらに力が入る。
ダメなのに…
振り返ったオレは
彼女と同じにその場にしゃがんで、泣きそうな瞳を見つめると…
頭に触れて、『泣かないで』って、撫でた。
彼女に触れたのは…
これっきり
「……で?机に隠れて
ヤっちゃったんですか」
「ななななんて事ゆうんですか!」
「だって、
手ぇ出したんでしょ?」
当たり前のように、
松本先生は言うけど…
「…な事あるわけないですよ!」
カフェオレを飲みながら苦笑いした。
「それは、『手を出した』とは言わないでしょ」
「そんな事ないですよ」
人、ってね、欲が出んの。
一度触れると…次が…欲しくなる。
もう少し、もう少しだけってね。
あの綺麗な髪に触れたいって欲を叶えてしまったから。
次は……?
松本先生、あなたはそう言うけど
これはね、充分手出してるんですよ。
それにね…、『泣かないで』なんて…
あの瞬間、俺は
完全に、"男"でした……