第9章 先輩と後輩 #side ニノ
「ニノ!キャッチボール付き合ってよ」
バケツにボールを拾ってるオレに、いつものバカデカい声が響いた。
「いいっすけど…あの、それ…何なんすか?」
「え??何かついてる?」
さっきまでスライディングして遊んでた汚い手で顔触るから、
顔にまで泥付いちゃったよ、この人は。
「違いますって!いや、
その…ニノって!」
「ああ~だってさ?
二宮でしょ?ニノでいいじゃん!ねっ?」
また、子供みたいに
歯見せて笑って…調子狂うんだって。
「なんでもいいですけど。
それから顔!泥付いてますって!」
「マジ?どこどこ?」
「あぁあっ!またついた!」
…どっちが先輩なんだか
「あ~右頬の~、違っ逆!」
するといきなり。
背の高い相葉先輩が、オレの目線に膝を折り曲げて…
その顔が…至近距離に近付く。
ドクンって、
自分でビックリする位、心臓が飛び跳ねた。
「どこ?取って」
恐る恐る、手を伸ばして…
相葉先輩の頬に、指先が触れた瞬間
『雅紀ーーっ!監督呼んでる!』
背後からの大声に、ビクッと体が縮まった。
「えー?今行く!…ニノ、後でキャッチボールね」
オレが頷くと、背中を向けた相葉先輩に、慌てて声を掛けた。
「あっ、顔の」
「そだ、泥!んっ…これで取れたっ?」
徐に捲り上げたシャツで、勢い良くゴシゴシ顔を擦ってる。
露わになった上半身に、思わず目を逸らした。
このドキドキは……
やっぱり、好きだからなワケで。
小さくなる相葉先輩の背中を見つめながら、ボール拾いを再開する。
「二宮!キャッチボールしようぜ」
同学年の奴の声が聞こえて来たけど、
気付かないフリして、ひたすらボールを拾う。
誰かとキャッチボール始めてたら…
相葉先輩が戻って来た時、別の奴相手にするでしょ。
約束したんだ。
キャッチボールの相手。
他の奴には、譲ってたまるか。
キャッチボールの最中はさ、
どんなに真っ直ぐ見つめても、不自然な事ないよね。
それに……この時は先輩だって、
……オレだけを見てくれる。