第4章 怖い人
私の悪い癖だ。
考え事をしたり困ったことがあると現実から目を背けて眠りについてしまう。
薄く目を開けると既に日が登っていて、柔らかく粉のように白っぽい朝の日差しに、針で指すように目の奥を痛めた。
どうやら早朝のようだ。空気が澄み切っていて気持ちがいい。
眩しくて開けられない目を再び膝に隠すと、頭上から「おい」とドスの効いた声がした。
まだ目を覚まさない頭はその声を聞き流し、二度目の眠りにつこうとしている。
「おい!」
更に怒気の増したような声でようやく頭が覚醒した。
「はい!」と悲鳴に近い声を上げて上を見上げると、私の前で朝日を遮るように立つ男がいた。
逆光で顔が見えない。
不機嫌そうな声と着ている服から、この船の船長が立っているのだと気づく。
急いで立ち上がろうとして 縮こまっていた体を解くと、体の隙間服の隙間に冷たい風が入り込み身震いさせる。
「っくしゅん」
冷気が肌を擦り続けて二度三度とくしゃみを続ける。
「ずびばせん……。」
ズルズルと鼻をすすりながら立ち上がった。
昨日はあまり気にしなかったが、並んでみるとものすごい身長差だ。頭一個分と言わず、私のてっぺんは彼の肩よりも下にある。
上からの刺すような目とその表情から思わず足を引っ込めるが、後ろは壁なのでこれ以上距離を置くことはできず、踵と壁がぶつかり合い“とん”と音を鳴らすだけだ。
眉間に寄ったしわとピクリとも動かない表情で、さらに体が凍る。
「あ、あの、船に乗せていただいて、ありがとうございました!」
あまりの威圧にこれ以上向き合ってられず、へそのあたりまで勢いよく頭を下げた。
どうにも上からの視線が痛く後頭部に刺さるようで、しばらく頭を上げられずにいると、目の前の威圧が消えた。
彼は私の視界の端を通りガチャリと音を立てて室内に入っていった。
去る足音を聞きながら頭をあげると、さっきまで遮られていた朝日が目を刺激する。
思い出したように肌寒さを感じて私も船長さんに続いて船内に入った。
パジャマ1枚で冬島周辺の海で一晩寝るのは今後やめた方がいい。
怖かった……
船長さんとの会話は会話と呼ぶには言葉がなく、お互い一方的に声をかけて終わった。
とりあえず船に乗せてもらえたお礼を言うことが出来たことに満足感を覚え、震える両腕をさすりながら食堂へ向かった。
