第1章 出会い突然なんだぜハニー!
「ふっ、それにしても君はおかしいな」
ふっと口に手を当てて笑うカラ松、その笑い声の横では気だるげに煙が空をゆく。
「何がおかしいの?」
「ああいや、すまない。アコギギターの事をこの子と言ったからさ」
海風に吹かれて少し頬を赤くして笑うカラ松に、気だるげな煙は方向をかえた。じっとみつめる瞳は深いブラウン色をしていて、カラ松の胸をドキリと鳴らす。
「...変だった?」
ブラウン色はカラ松の黒い瞳を確りとうつして、とうの黒い瞳の持ち主は視線が迷子にでもなっているかのよう。右往左往に泳ぐ視線は少し下へと下がり、頬を赤く赤く染めはじめる。
クスリと余裕そうに笑う、この男に女の免疫が無いことは明白だ。少しからかってやろうなどと浅はかな事を考えたが、残念ながらそれは叶わない。
「いや、なんだろうな。可愛いと思うぞ」
そんな小っ恥ずかしいセリフを吐く時だけ、じっと自分のブラウン色を見つめるものだから顔に熱が集まるのも無理はない。ポロリと煙草の灰が落ちて、石段の上でバラバラになっていく。それの少し後に煙草が落ちて、チリチリとその身を焼き灰へと変えていく。
「...カラ松のバカ」
落ちた煙草を履き潰したスニーカーが踏む。完全に火を消した後に律儀にも吸殻を拾い上げる。もう少し吸えたのに、動揺して落としてしまった煙草を隠すように端へとよけた。
「そうだ、ガール何故海にアコギギターを持ってきてはいけないんだ?」
頭の真上でクエスチョンマークを浮かべているカラ松に、話が切り替わってよかったと胸の中のどこかで囁きながら、気だるげなため息を一つ。
「海は塩っけが多いから、弦が酸化しやすい。つまりこの子にとっていい環境でないから」
「そうなのか。それは知らなかった、すまない知らない間に無理をさせていたんだな」
アコギギターはカラ松の大きな手に撫でられると、はりなおされた弦を嬉しそうに鳴らした。