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MERMAIDBALLAD

第3章 MERMAIDは歌えない



優しい音の中でしばらくぼんやりとしていたが、カラ松は違和感に気づく。
音は聞こえるが、何故か歌は聴こえないのだ。

歌のない曲なのだろうか、普通はそう考えるものだ。
しかし、の口はかすかに動いている。

それでも聴こえない歌声に、カラ松は彼女をただ見つめていた。いや、見つめていたのではない、その場から動く事ができなかったのだ。
足枷でもつけられたようにピクリとも動けない足、けれどその光景からは目が離せない。

ふと音が止み、上を向くの顔は今にも泣き出してしまいそうなほど悲しげだ。

そっと喉に手を当てゆっくりと瞬きを2回ほどし、上を向いたまま空に声が響く。

「この...こえ、を、き...て...」

掠れた声だった。
この間会った時の声とはまるで違う、壊れた笛のよう。
ひゅーひゅーと空気が漏れる音、彼女はたしかに歌おうとしているのだ。
けれど月に届くのは、なんとも言えない壊れた歌声。

そんな壊れた歌声を風はさらい、波は打ち消す。
聴いていられないとブーイングでも浴びせるように、やけに響く。

そのせいかは歌うのを止め、ギターを抱きよせ小さく丸まった。

なんと声をかけていいものかと迷うカラ松を、海と月だけは知っている。


「う、ううっ...こんな、こんなもの!!!」

深い青をたたえた海が、の言葉を飲み込む。

言葉とは裏腹に強く抱き寄せているアコギギターが、じゃらりと何の意味もない音を奏でる。

けれどカラ松にとってそれは、ギターがのかわりに泣いているのだとそう思えてならない。

鉛のような重い足を動かし、1歩また1歩と小さな影に近づいていく。
自分がなにかできるわけでない、けれど見てしまったのだからほっておくことはできないという強い思いがカラ松の足を動かす。
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