第1章 出会い突然なんだぜハニー!
「...でも、ちゃんとお手入れしてあげてるから大丈夫だと思う」
愛しそうにギターを撫でるカラ松にポツリとこぼしたのは、彼の目が優しく見えたからだろう。少し古いギターは傷こそあれ、太陽光を跳ね返しながらピカピカに輝いていた。きっといつも手入れをかかしていないのだろうと簡単に推測できる。
「そうなのか?フッ、なら帰ったらまた綺麗に磨かないとな?」
屈託のない笑顔が輝く太陽と重なれば、からかってやろうだなんて気がどこかへ消えていく。そっと胸に手を当てればドクンと大きく鳴る心臓の音が、の血液循環を速くする。
「顔が赤いな?大丈夫か?」
心配そうな顔をするカラ松に、ふいっとそっぽを向き。端に避けた煙草を拾って石段を1歩2歩と駆け上がっていく。タンタンとリズムを刻んでいくかのように、石段はのステップにあわせ音を刻む。
「...カラ松」
こぼした言葉は風に攫われ、攫った先に微笑む男。
「なんだ?」
低い声は波音と共に流れ、女の足を1歩止める。
「...呼んだだけ」
「そうか」
続かない会話、ただなんとなく二人して思うのはここで何も無いままに離れるのは何だか惜しいという事。
思っている事を口にするのが苦手な女と、女経験0の童貞ナルシストはただ固まった時間を過ごす。
ダラダラと汗を流すはカラ松だ。
(な、なんということだ!俺がこの俺が!いや速まるな、ここは口説く...)
チラリとの顔を覗いてみるが、表情が表に出ないには無意味な事だ。
(NO!!無だ。完全なる無じゃないか!なんだ、なんなんだ!先ほどの事を怒っているのか?)
サングラスをかちゃかちゃ直しながら、あーでもないこーでもないと必死に口説き文句を考える。が、良い言葉が思いつくはずもない。ペラペラとナルシスな言葉を並べる事すら今のカラ松には困難である。
「....それじゃ」
言葉を迷っている間に先に別れを告げたのはだ。止まっていた歩は風とともに動き出す。