第1章 出会い突然なんだぜハニー!
「ねぇ、それ」
時間の止まっているカラ松を横目に、全く別の方へ指が伸びた。
ぼんやりとしている頭が、そちらへ向けと信号を発してゆっくりと向けば、無残に弦が切れたアコギギターが転がっている。
「あ、これは、暑さのせいでご機嫌ななめなのか、全く困ったレディだぜ」
そんな事をいいながらも、優しくアコギギターを大きな手が撫でる。慈しむように側面に指を滑らせ、目を細めて笑うカラ松にはポツリと呟く。
「はりなおさないの?」
「生憎と弦がなくてな、新しいものがあればよかったんだが...」
困ったように笑えば、はゴソゴソと黒いカバンを探り銀色のケースを取り出す。
「貸して」
短めな一言とともに、銀のケースから取り出されたのは弦だ。太陽光に晒された1本の長い弦は、キラキラと音でもたてるかのように光り輝いていた。
「いいのか?」
突然の事に困惑しているカラ松に、少し気だるそうな表情を見せながらはアコギギターを奪い取る。
ピンと弦をはり、てきぱきと作業をこなす様は素人目に見ても玄人である事がわかる。
ちらりと盗み見たの表情は、先程の気だるさなど消えていた。アコギギターと向き合う目は真剣で、慈しんでいるように見えた。
その表情一つでどんな人間の時間も止めてしまえそうなほど、美しいの一言に尽きなかった。
「終わった」
時間にして数分だろうか、そんなにたっていないはずなのに時間が永遠に感じ、この時間に浸っていたいと願うほどだ。
「す、凄いな...」
渡されたアコギギターを見れば、完璧にはりなおされた弦が眩しく輝く。惚れ惚れと見つめ1本弦を指で弾けば澄んだ音が1音、海の波に攫われる。
「その子、あんまり海に持ってきちゃダメだよ」
カチリという音とともに、メンソールの香りがすっとカラ松の鼻腔を抜けていく。
ふうっと吐く煙を見つめながら、優しく弦を撫でる手がぴたりと止まった。