第1章 出会い突然なんだぜハニー!
ひょいっとカラ松が拾い上げたのは、一本の煙草。
「カラ松ガール、ここは海だ。人の帰る場所だ。そんな所にゴミを捨てていくのを俺は黙って見過ごすことはできない」
カラ松は真っ直ぐと女を見る。
ざあっと1陣海の風が吹く、潮の香りがまとわりつき女の髪を揺らした。
時が止まったかのように静寂が二人を包む、気まずい状況というやつだ。
だがそれでもカラ松はまっすぐと女を見つめる。
黒い瞳をじっと見つめ返し、ふっと笑いだすのは女だ。
あぁ、馬鹿だ。きっとこいつは正真正銘の馬鹿正直だと...。
「ごめん、たしかに海を汚すのはいけないことだね」
素直に謝ると同時に、揺れていた髪を自分でさらりと撫でてふっと顔を横に向けた。
その仕草に一瞬見とれてしまった正真正銘のお馬鹿さんは、ハッとしてあたふたしだす。無職童貞、女の免疫など0の彼がこの状況に耐えられるわけもない。
「わ、わかれば、いいんだ、その、キツい言い方をして悪かった」
イタいキャラを忘れて真面目にそういうものだから、また女はふっと笑う。
「ねぇ」
「は、はひぃ!?」
顔を赤くして挙動不審の目の前の男。
そんな純粋な男に興味が湧いたのか、女は口を開く。
「名前、あんたの名前、教えてよ」
キョロキョロとあたりを見渡して、自分を指さす姿はあまりにも滑稽でそれでいてほんわりと女の心を温める。
「か、かか、カラ松...だ。」
「ふぅん、カラ松って言うんだ。変わった名前」
「ガ、ガール、君のネームを俺にも教えてくれないか?」
ガタガタと手を震わせながら、煙草を持っている方とは逆の手でサングラスをかけ直す。
カラ松なりにここで格好をつけないととでも思っているのだろう。
残念ながら格好もなにもついていないが...。
「...」
髪を風に弄ばれながら、小さく名前を言った女の声はとてもクリアで美しかった。