第2章 オーマイリルおでん
「えー?僕?」
うねうねと触手を両手で再現しながら、ほんのり赤い頬のまま困った顔をする。
十四松もまたいける口なようで、お酒には強い。
ビールやらなんやらどんとこい、食べるのも飲むのも大好きな彼は確かに1番食費がかかる。
「えーとね、えーとね」
一生懸命海パンをゴソゴソとしはじめる、この間のお会計時には可愛らしいドングリを三つほど出したが今回はなにを出すのか?
「これでどう!?」
キラキラした笑顔で、ドヤ顔を披露する。
赤い明かりの下でテーブルに散らばったのはなんと...。
「!!?!バーロォ!!セミのぬけがらが会計になるわけねーだろ!!」
もちろんお金ではなく、少年の夢と夏の日の思い出である。女性が横にいたら発狂するレベルの代物を海パンから取り出すあたりありえないが、もし横に女性がいたらラムネのビー玉を取り出すので安心してほしい。
「ねぇ、これ...動いてない?」
一松がツッコんだ瞬間、1人の顔はさぁと青くなった。
「そ、そそそそ、それそれってさ、なか、中身入ってるの?十四松兄さん?」
「もちろんだよ!トッティ!!!なに!?欲しいの!?」
「いにゃぁぁああ!!!!!!」
十四松が言葉を発するやいなや、その場から全力疾走で逃げ出す末弟。
その走りは美しいフォームと、毎朝のランニングがなせる見事な持久力を足したものである。
悲鳴は完全に女子だが...。
「あっ!こらトド松!お会計ー!」
いつの間にやらトド松に勘定を押し付ける形で走り出すおそ松、否、そういうわけではない。
トド松にお会計を押し付けようとする形でその場から逃げる為である。
その走りはさながら通勤ラッシュ時のサラリーマンのように必死だ。バカスカ酒と煙草をしているはずなのに、その体力はどこからやってくるのだろう?
絶対にお金を出したくないゆえか、はたまた若さゆえか?
どっちにしろ最低な事に変わりはない。
こういう事になると要領のよい2人が抜けた事により、残る松野ブラザーズは4人だ。