第4章 僕らのお姫様 (桜太&慧太)
予想していなかった答えに声をあげて笑った。
「慧太、それじゃ子供の頃と同じだな」
慧「うるせぇな。っていうか、子供の頃の傷、まだ痛むのか?」
何の事を言われたのか分からず、慧太を見る。
慧「そこ、押さえてるからよ?」
これか・・・
「今は、痛くないよ。梅雨時とか、気温が低い冬なんかは、たまに・・・チクリとするけどね」
慧「なら、いいケドよ」
ゴメン、無意識に押さえてたよと笑い、ふと紡の事を思い出す。
「紡がさ、この前急に・・・この傷の事を言い出したんだ」
脇腹の傷跡を押さえたまま、空を見上げた。
慧「紡が?何でまた今頃?ずっと忘れてたんじゃ?」
灰皿に煙草を押し消しながら、慧太は俺を見た。
「紡が搬送された夜中にさ、立て続いてた救急搬送が落ち着いて帰れる事になって、さすがに疲労困憊だったから紡の顔見てから帰ろうとしたんだけど・・・気が緩んだらそこで寝ちゃってさ」
慧「あの日か。明け方帰って来た時だろ?」
「そう、あの日。で、ハッと目が覚めたら紡が起きてて。少し話をしてたら急に紡にお腹見せて!ってシャツ捲られたんだよね」
あの時はビックリして、一瞬動きが止まったからね。
慧「捲られた?って、お前なに妹に襲われてんだよ」
「襲われてないから!・・・で、この傷をジッと見てると思ったら触るし。何かと思えば、体育館で意識が飛んでる時に夢に見たって」
慧「夢?そんな事って、あるもんなのか?」
2本目の煙草に火をつけながら、慧太がベンチに座った。
「医学的にはよく分からないけど、そうなった患者さんからは昔の事を夢で見た、とかは聞いたことあるよ。まぁ、俺の患者さんって言っても、メインは小児科だけどね」
慧「そりゃそうだろうけどよ。それで、その事を桜太は気にしてんのか?」
「まぁね・・・紡は全てを思い出した感じじゃなかったし、あの時は何ともなかったし今も平気だとは言ったけど。まさか、実は死にかけました、なんて言えないからね」
あの時、傷が大きかったのと水辺にいたせいで出血が多かったから俺は生死をさまよった。
・・・っていうのは、後から父さん達に聞いた事だけど。
縫合手術の後、数日間は意識不明で焦ったって言ってたし。