第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
声をかけるより先に、来た時とは明らかに違う足取りでリビングへと入って行く紡の後ろ姿が見えた。
いったい慧太は紡に何をしたんだよ。
軽くモヤッとしながら、リビングへと入る。
「ただいま・・・あれ?紡は?」
慧「おぅ、お帰り!」
言いながら慧太がキッチンを指さしてニヤリと笑っている。
あぁ、なるほどね。
キッチンからは野菜を刻む音や、バターを溶かす香りを感じられた。
「着替えてくるよ」
そう言ってリビングを後にして、俺は自室へと入り、着替えを始めた。
その矢先に・・・。
慧「それくらい仕方ないだろ?桜太だってオトナなんだし?」
『それでも嫌なんだもん!慧太にぃのバカ!変態!嫌い!!桜太にぃのご飯は慧太にぃが勝手に作って!』
・・・ん?
なんか今、凄い捨て台詞を聞いたような。
大きな音を立てリビングのドアが開いたと同時に、紡が廊下を走って行く足音が聞こえた。
また慧太が・・・
脱いだ物を持ち階段を降りていくと、様子を覗いていた慧太がいた。
「慧太、あんまり紡を構い過ぎるなよ」
ため息混じりに言うと、慧太は今のはオレのせいじゃねぇよ、と小さく言って俺を手招きする。
言われるままにリビングに入ると、慧太が飛んでもない事を言い出す。
慧「桜太。お前いま持ってる洗濯物、嗅いでみろ」
・・・・・・・・・。
「は?俺はそんな趣味嗜好はないけど?」
慧「バカ!ちげーよ!いいから嗅げ」
別に・・・なんにも?
煙草は車じゃ吸わないし。
そもそも、臭いがつくほど煙草は吸わない。
「言ってる意味が分かんないけど・・・」
慧太も嗅ぐ?と言うように洗濯物を突き出すと、オレだってそんな趣味嗜好はねぇよと押し返された。
慧「桜太がリビングから出てスグに紡がやっぱりオレに桜太の飯作れって言うから、何でだよ?って返したらよ?まぁ・・・アレだ・・・」
「そこ濁されたら何も分かんないよ」
慧「まぁ、そうだよな。アイツが、桜太にぃからいい匂いがした・・・女の人の匂いだ!なんか嫌だ!って怒り始めてよ?」
・・・女の人の?
「あ・・・」
慧「思い当たることが、ありそうだな?」
ニヤリと笑う慧太に、俺は動揺を隠せなかった。
「あ、いや!慧太が考えてる様な無責任な事は」