第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
車内にいるんだから、そんな心配いらないのに。
笑いが零れ、梓にしてやられた・・・と更に小さく笑う。
君は・・・俺の取説をよく分かってるね・・・
“ 梓、元気で・・・ ”
最後になる返信を送る。
“ 桜太も ”
すぐに返ってくる返事を見て、大きく息を吐いた。
気持ち、切り替えないとな。
俺は長男だから、しっかりしないと。
さっきとは違い、ハッキリとした視界で慧太に電話をする。
“ おぅ!どした? ”
「慧太、今日の夕飯・・・なんだった?」
“ 紡が張り切って作ったオムライス ”
「今から帰ったらさ、俺も食べれるかな?」
“ は?桜太、帰ってくんの? ”
「当たり前だろ?今日は日勤だよ」
盛大にため息をついて答える。
“ いや、そうじゃねぇよ。桜太、梓ちゃんと会うって言ってたから・・・てっきり1晩中ベッドで・・・”
「慧太・・・梓は人妻だよ」
“ そうかも知れないけどよ?据え膳、 ”
「慧太じゃないんだから・・・とりあえず今から帰るよ」
“ ・・・桜太。大丈夫か? ”
軽口を叩いていた慧太が、静かな口調で俺に言う。
双子だから、何か感じるものがあるのか。
それとも、俺の様子が変だったのか。
「さぁね?」
“ あっそ?せっかくいい酒あんのになぁ。オレ1人で堪能するかな? ”
「じゃ、その、イイヤツは夜のお楽しみにしておくよ。じゃ」
通話を終えて、家路へと車を走らせた。
玄関を開けると、リビングから小さな影が元気よく飛び出して来る。
『桜太にぃ!お帰りなさい!』
「おっと・・・ただいま、紡」
駆け寄った勢いで抱き着いてくる紡を受け止めながら、じわりと感じる幸せに顔が緩んでしまう。
「そんなに待ってたのか?」
『だって慧太にぃがいちいち意地悪す、』
ん?
話の途中で止まった紡の顔を、背を屈めて覗く。
どうしたんだろう。
余程の意地悪を慧太にやられた?
「紡?どうした?」
ギュッと抱き着いていた腕を離し、紡が寂しそうに離れていく。
『桜太にぃ・・・疲れてるよね?ごめんなさい・・・』
「あ、ちょっと?紡?」