第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
田「ノヤっさんの髪が!ブッ・・・ギャはハハッ!!まるで別人じゃねぇか・・・ブフォッ!!」
「るせぇ!仕方ねぇだろ!笑うな!!」
紡を待つ間、龍がひたすらオレの髪型を笑う。
雨でずぶ濡れだったから、セットが落ちても仕方ねぇ。
それに・・・あの時はそんな事なんて考えてる余裕なんてなかった。
まぁいい。
こんな髪型ひとつで人生変わるワケじゃねぇ。
田「おぉっ!!来たぞノヤっさん!我らが潔子さんが!!」
「なにっ?!潔子さんだと?!・・・あ、いや・・・今日の所は・・・いい・・・」
今日の今日で潔子さんを優先したら・・・マズイ・・・だろ?
『すみません、お待たせしちゃって・・・』
「いや、別にたいしたことねぇよ。じゃ、帰るか」
ほら、と言いながらオレは紡に手を伸ばした。
『えっ・・・と・・・?』
「帰るんだろ?だから、ほら・・・行くぞ」
なかなか手を伸ばして来ない紡に、オレの方から近付いて手を繋ぐと、紡は一瞬ピクリとして、その後に嬉しそうな顔を見せてくれた。
田「ノヤっさんが・・・ノヤっさんが俺のお嬢の手を・・・」
「だぁぁぁ!うるせぇ!紡はオレの彼女だっ!行くぞ紡、今日は家まで送るからな!」
ガヤガヤと騒ぎ立てる龍たちを置いて、オレは歩き出す。
前までは並んで歩くのも門までだった。
・・・ケド。
今はこの手を離したくないから。
ずっと望んで届かなかった小さな手を引いて、今まで知らなかった事を少しずつ知って行きたい。
手・・・繋げたから。
次は・・・
いや、それはまだハードルが高そうだ。
今はまだ、この繋がれた暖かさを大事にしたい。
『西谷先輩、どうかしたんですか?』
隣を歩く紡が、ひょこっとオレの顔を覗いた。
「何でもねぇよ」
前より近くなった距離に、胸がドキリと音を立てる。
オレはそれを知られないように、よそみすんなよ?、と声をかけながら歩いた。