第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
そう思いながら、梓の小さな体を抱きしめ、感触を心に刻む。
「梓」
そっと名前を呼び、そのまま梓に口付ける。
「オトナのキスは、してくれないのね」
そう寂しがる梓の髪を撫で、もう1度抱き寄せた。
「ここまでが・・・俺のチェックメイトだから」
「・・・分かった」
「もう・・・行くよ」
このまま一緒にいたら、理性が保てそうにないから。
ゆっくと梓の体を離し、簡単に身支度を整えドアへと歩き出す。
「桜太・・・私はあの頃、本気で・・・愛してた」
その言葉に、過去の愛し合った記憶が胸を埋め尽くす。
「梓・・・俺はあの頃からずっと、変わらず君を愛してるよ・・・」
「・・・ありがとう」
梓の言葉を聞き終わる前に、俺は部屋から出た。
締め付けられる胸を押さえながら階下へ降り、俺は1人でロビーから出る。
振り返ることもなく足を進め、車を停めたパーキングまで来ると、堪えきれなくなった涙がひとつ・・・零れた。
あの日・・・俺が梓の手を離さなければ。
2人で歩く道がどんなに困難だとしても、手を離すべきじゃなかった。
無理矢理でも手を引いて、歩き続けるべきだった。
・・・でも。
長男であるが故に、自然と身に付いてしまった自分を後回しにする癖がそれを足止めた。
こんな時、もし俺がいっそ慧太の様に生きられたら・・・
「今更・・・何を後悔してるんだ俺は」
ポツリと呟き、車に乗り込む。
慧太に夕飯置いといてって、連絡入れなきゃ・・・
そう思っても、滲んで行く視界のせいで上手く画面が押せない。
ナビシートにスマホを放り出すと同時に、メッセージが届く。
“ 桜太、1人で泣いちゃダメよ? それから、慧太君と紡ちゃんによろしくね ”
梓からのメッセージを読み、乾いた笑いを漏らす。
・・・梓。
こんな絶妙なタイミングで、慧太の名前を出すなよ・・・。
“ 俺と一緒にいたのに慧太の名前を出すなんて、悪い女だね? ”
微かに震える指で返信をする。
“ 私、慧太君も好きよ?だって顔だけは桜太と同じだもの ”
・・・おいおい、頼むよ梓。
思わず口元が緩み、誰かに見られていなかった周りを見てしまう。