第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
顔を背け、ギュッと目を閉じたまま紡は黙り込んだ。
オレは・・・どうしたらいいんだよ・・・
こんなんじゃ、お前にちゃんと伝えることも出来ないじゃないか・・・
岩「紡」
両手をグッと握り締めた時、紡の隣で黙ってオレ達を見ていたヤツが、紡の名前を呼んだ。
岩「紡。ちゃんと、話を聞いてやれ。聞かないとお前は絶対後悔するぞ」
それでも紡は小さく首を横に振る。
岩「聞いてやれ。全部聞いて、それからお前がどうしたいのか考えろ。そっから先の事は、その時に考えればいい」
紡の肩に手を置きながら言う姿を見て、オレは紡の元カレってのがこの人なんだと確信した。
オレよりもずっとオトナで、紡と別れたはずなのに・・・包容力があって・・・
ここにいる誰よりも・・・優しい目で、紡を見てる。
オレに・・・勝ち目はないんじゃいかとも錯覚させるような、穏やかさも兼ねていた。
オレがその姿を見ていると、その人はオレを見て頷いた。
続きを、話せってことだろう。
オレは意を決して、大きく、深く深呼吸をした。
「紡、オレがお前を1番に出来ない理由は・・・それは・・・」
そうだ・・・お前は・・・
「それは、紡がオレの全てだからだ!」
『すべ・・・て?』
「そうだ。何人もいる中の1番なんかじゃない。オレの全てが紡・・・お前なんだ。だから1番とか、そんな風に考えた事なんて1度だってないんだよ!」
大きく見開いた紡の目から、ポロポロと涙が零れ落ちた。
「オレはお前が死ぬほど好きだ!!オレはお前がいないとダメなんだ。普段も、バレーも・・・これから先もずっと隣にいてくれないと・・・だから、」
ありったけの想いを込めて、紡にオレは手を伸ばした。
「オレと一緒に帰ろう・・・」
伸ばした腕に、手のひらに、容赦なく雨が降り注ぐ。
頼む・・・オレの手に、紡のその小さな手を・・・重ねてくれ・・・
『私が・・・隣にいてもいいんですか?』
「紡以外は、考えられねぇよ・・・」
紡の頬に幾つもの涙が、雨に流されながら落ちていく。