第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
「子供じゃないって、言ったのに・・・」
「梓、ひとつだけ・・・聞いて欲しいことがある」
俺がそう言うと梓は顔を上げ、ゆっくりと瞬きをした。
「・・・あの頃、俺達はまだ大学に入ったばかりでお互いすれ違いが多くて。結果、少し距離を置こうかって、違う道を歩く決断をしたよね?」
梓は梓の目指す道を。
俺は、俺が目指す医療への道を。
それぞれの道を掴み取った時、連絡を取り合おう・・・
梓がどうしても迷い悩んだ時に、1度だけワガママを聞いてあげる。
その約束を交わし・・・
そう決めて、2人・・・歩き出した。
「今は・・・梓のワガママを叶えてあげられない。でもそれは、気持ちが離れたからじゃない。今でも俺の思いは・・・梓の側にある」
「だったら・・・」
梓の漏らす言葉に俺は黙って首を振った。
「もし今、気持ちに流されて梓を抱いたら・・・その時は後悔しか残らない。だから・・・」
震える小さな肩を、力強く抱き寄せる。
「だから・・・?」
「これから先、俺は俺の、梓は梓の人生を思い残すことなく生きて、そして・・・来世で・・・一緒になろう・・・」
「来世なんて、分からないじゃない」
「分かるさ」
「また私が誰かと一緒にいるかも知れないのに?」
「そしたら俺は、またその次の来世を待つよ」
「私が桜太を見つけられないかも知れないよ?」
「その心配はいらないよ。俺がずっと、梓を覚えてるから・・・だから必ず、探し出してみせるよ」
「必ず・・・迎えに来てね・・・」
顔を上げ目を輝かせながら梓は俺に小指を差し出した。
「あぁ・・・必ず迎えに行くから・・・」
言葉を交わし、差し出された小指に自分の小指を絡め、そこに触れるだけの口付けを落とした。
「ありがとう、桜太」
微笑む梓を、もう1度強く抱きしめた。
「桜太・・・私が笑っている内に・・・行って?」
そっと俺の胸を押し返し、梓が俺を見る。
「1人で・・・泣いたりしない?」
「・・・もう、いっぱい泣いたから」
クスクスと笑い出す梓に、俺も微笑んで返す。
この笑顔が、来世でも見たい。