第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
ほぼ同時に、2人が私の腕を掴んだ。
及「こんな雨の中、こんな所でどうしたの?」
『何でもありません・・・』
岩「何でもねぇワケないだろうが!おい、ちゃんと顔上げて話せ」
言われたように、ゆっくりと上げた私の顔を見て、2人は驚いていた。
岩「お前その顔・・・何があったんだよ・・・」
及「岩ちゃん、とりあえず屋根がある所に移動しよう。さ、紡ちゃん、こっちに・・・」
及川先輩が傘を傾けながら私の背中にそっと手を当てた。
『私の事なんて・・・ほっといて下さい』
及「何言ってんの紡ちゃん・・・こんなにびしょ濡れなのに。ほら、タオル貸してあげるから」
『いりません!本当に・・・ほっといて下さい・・・』
差し出されたタオルも押し返し、また、数歩後ろに下がる。
岩「ほっとけるワケねぇだろ!こっち来い」
『離して、優しくしたりしないで!岩泉先輩も西谷先輩も私がいたらバレー出来ないんでしょ?!だったらもう何もしないで!!』
自分でも、八つ当たりだと分かってる。
それでも誰かに喚いて吐き出してしまいたかった。
及「岩ちゃん・・・」
及川先輩が自分の傘を私に傾けながら、岩泉先輩を呼んだ。
岩「・・・とりあえず、落ち着くまでは俺も及川も・・・側に、居てやるから」
そう言って制服のジャケットを脱いで、雨から私を守るように抱き寄せた。
その懐かしい暖かさと、胸の奥にしまい込んでいた香りに・・・余計に泣けて来た。
及「紡ちゃん、行こう。風邪ひくから」
2人に促され、公園の入口横にある屋根付きのベンチへと移動した。
その間も及川先輩はずっと自分の傘を私に傾け、岩泉先輩は・・・手を、繋いでいた。
及「はい、紡ちゃんタオル」
差し出されたタオルを受け取らずにいると、及川先輩が慌てだした。
及「あ、使ってないやつだからね!キレイなタオルだから心配しないで?!ね!!」
岩「当たり前だろ!お前が使った後のタオルなんか、コイツに使わせられるか!クソ川菌が付くだろ!」
及「岩ちゃん、オレをディスる時なぜ全力なんだよ・・・」
岩「うるせー、ほら貸せ。・・・ったく、びしょ濡れじやねぇか」
岩泉先輩がタオルでわしゃわしゃと私の頭を拭いた。
及「ちょっと岩ちゃん?乱暴過ぎ!」