第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
もう、これ以上ここにいたら。
いま1番会ったらいけない人が来てしまう。
滲みそうになる目を堪えて、私は1歩下がった。
『とても短い期間でしたけど、楽しかったです。他の皆さんにちゃんとご挨拶出来なかったけど、大会の時はどこからでも・・・ちゃんと応援しますから・・・ありがとうございました!』
深々と頭を下げ、ひと呼吸してから顔をあげた。
『じゃ・・・もう行きますね?・・・練習頑張って下さい』
もう1度軽く頭を下げて、私は体育館を出た。
これで、いいんだ・・・
これで・・・
堪えてもじわりと滲んでくる視界を、空を見上げるフリをして瞬きで隠す。
せめて、門を出るまでは我慢しよう。
学校から出たら、走って、走って・・・誰もいなくなってから、好きなだけ泣こう。
歩きながらリュックを背負い直し、誰にも会わないうちに学校を出ようと歩き出した。