第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
「どうやって家まで帰ったのかなんて、覚えてない位に。泣きながら事実を話したら、大丈夫だよって抱きしめてくれると思ってた。だけど
・・・私に向けられた言葉は、そうじゃなかった」
声を詰まらせ震える小さな体を、そっと抱き寄せた。
「自分はどうしても子供が欲しい、だから、そんな病気の子宮は誰かと取り替えればいいって・・・一瞬、自分の耳を疑いたくなった。結局、私はそうするしかなくて、来週イギリスに・・・」
「梓・・・もう、話さなくていいから」
震える体を、抱きしめた。
「もう、いいから・・・」
泣き出した梓を抱きしめたまま、どれだけの時間が経ったのだろうか。
俺の知らない梓。
それを、こんな形で知る事になるとは・・・ここへ来た時は分からなかった。
今日、どんな思いで俺に会いに来たんだろう。
それを考えるだけで・・・いろんな気持ちで押し潰されそうになる。
「桜太・・・私達が別れた時の約束、覚えてる?」
「・・・あぁ、覚えてるよ」
色々な事情が重なって、俺達が別れる事になった・・・あの日。
たったひとつだけ梓交わした約束。
それは・・・
「いつか再会する日が来たら、お互いのワガママをひとつだけ・・・叶えよう、だったよね」
「その約束、いま・・・叶えて?」
いくつもの涙の後を残した顔を上げ梓は俺を見た。
「1度だけでいいから・・・抱い、」
「それはダメだ梓・・・」
「それ以上は何も望まないから。お願い・・・私の体が私だけの体である内に、ちゃんと誰かに愛された証が欲しい・・・」
「梓・・・他のワガママなら叶えてあげられるかも知れない。でも、それだけは出来ないよ・・・」
「どうしても?」
伏せ目がちになった瞳から、雫が落ちて行く。
頬に添えた指でそれを払い、もう1度そっと抱き寄せる。
「それは・・・お互いにルール違反だからね。梓には、守るべきパートナーと・・・そして、守ってくれるパートナーがいるだろ?」
「もしあの時・・・桜太と別れていなければ、まだ私は隣で笑う事が出来たのかな・・・」
梓の言葉の答えが見つけられず、俺はただ抱きしめるしかなかった。
落ち着かせるために、何度も背中を撫でる。