第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
一瞬の驚きの隙に、俺の手を解きドアを背中で隠すように立つ。
「・・・困らせるなよ」
俯く顔をひと撫でして、その流れで閉められたばかりの鍵を開けようと手を伸ばす。
「桜太っ・・・」
「っと。今日は1段とワガママだね?」
俺の体に擦り寄った肩を抱きながら、そっとポンポンと叩く。
「子供扱い、しないで・・・もう、オトナなんだから」
言いながら俺を見上げ、少し背伸びをする。
「オトナなら、これがイケナイ事だって・・・分かってるんだろ?」
真っ直ぐ目を見て、出来るだけ穏やかに言うと梓の瞳が大きく揺らいだ。
「・・・知ってたんだ?」
「あぁ、知ってたよ。でも俺はズルイから、気付かないふりでやり過ごそうと思ってた・・・とりあえず、1度冷静になろうか?話ならいくらでも聞くから」
肩を抱いたまま、部屋のソファーへと促し梓を座らせた。
「何か、飲む?」
俺がそう聞くと梓は首を振り、隣にいて欲しいと言った。
言われるままに、少し間を開けて腰を降ろした。
「桜太、私ね・・・結婚したのは大学卒業してすぐなの・・・」
長い沈黙のあと、梓が先に口を開いた。
「そう、だね。それを知った時、正直・・・驚いたけど」
それからしばらくの間ずっと、俺は聞き役に徹し、俺の知らない梓の事を知っていった。
結婚は御両親の決めた相手だった事。
相手は20歳も離れた資産家だという事。
とても優しくて。
歳が離れているせいか・・・早く子供を欲しがっている事。
そして・・・
「子宮移植手術?!どうして・・・」
予想もしていなかった内容に、思わず声を漏らしてしまう。
「結婚して数年・・・ずっと子供が出来なくて。周りは私に、まだ若いからとか言ってくれてたけど・・・でも・・・」
「・・・でも?」
「子供が出来ないのは・・・私に原因があったの・・・」
「梓に?」
梓は頷き、両膝に置いた手を震わせながら握り締めた。
「医師である桜太なら、分かるでしょう?」
梓から聞かされた病名。
それは、不妊の原因のひとつであり。
・・・癌へと移行しやすいと言われている病気。
でも、決して治療法がない訳では・・・
「診断が出た時、凄くショックだった」