第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
2人の様子を見ながら、もしあの時・・・自分の気持ちをぶつけていたら。
もし今、ここに私がいたら。
ここから見える景色は、今とどう違って見えたんだろうかと瞼を閉じる。
決して戻ることは出来ない過去に、思いを馳せる。
桜太、私達・・・ううん、私は・・・かな。
恋する気持ちを思い出すには、オトナになり過ぎて。
愛を芽吹かせるには・・・遅すぎたんだね・・・
私がワガママを叶えて欲しいって言った時、本当は気付いてた。
私を抱き締める桜太の手が、僅かに震えていた事を。
だけど、それでも私はあの時・・・その温もりに甘えたいと願った。
でも、それを受け入れなかったのは桜太の弱さなんかじゃなくて。
桜太の心の、強さ・・・だから。
どうか、その事を悔やんだりしないで。
自分を責めたりしないで。
私の分も、たくさん・・・未来を歩いて。
夜空に瞬く星々に願った時、小さな音をさせてガラス戸が開く。
「桜太にぃも慧太にぃも・・・ふたりして、何してるの?」
背後の声に振り返ると、眠い目を擦るようにして立つ小さな女の子がいた。
慧「お子様はネンネの時間だろ」
「私もう、子供じゃないもん」
慧「どうだか?」
慧太君と話し出す女の子を見て、どこかで会ったことがあるような気がして記憶を辿る。
確か、あの時・・・偶然行ったバレーボール大会の会場で・・・
そうだ、あの時の女の子だ・・・
その頃と今とでは髪型も色も全然違ったけど、あの時どこか懐かしい感じがして、それから桜太に目元が似てるって思ったのは・・・気のせいじゃ、なかったんだね。
巡り巡る出会いと別れ。
それは誰にでも、どんな時にでも訪れる。
桜「甘えん坊は、大人になっても健在ですか」
甘えるように桜太に体を寄せる妹に、桜太が微笑んで、優しく何度も頭を撫でる。
「違うよ・・・なんだか、桜太にぃが泣いてる気がしたから・・・」
そんな言葉に桜太が少しだけ眉を下げ、そっと目を閉じた。
桜太・・・大丈夫だから。
寂しいのは、私も同じ。
だけど私には、あの時の指切りがあるから。
来世でいつか必ず、私を見つけてくれるんでしょう?
だからそれまでは。
のんびり、ゆっくり・・・私らしく、待ってるから。