第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
大事そうに腕に囲む小さな姿を少し羨ましく思いながら、自分もそっと寄り添ってみる。
いつかこの子も、誰かを愛し、そしてその誰かに愛される日が訪れる。
恋から愛に変わり、愛するが故に戸惑い、迷い、苦しんで涙を零す事もあるかも知れない。
でも、自分にとっての最愛を見つけたら。
何度苦しい思いをしても、どれだけ辛い日々を過ごしても。
繋いだ手は、離したらいけない。
・・・ダメ、絶対。
「あっ!流れ星!」
肩を並べて見上げた空に、一筋の光が流れて行く。
ゆったりとした時間にエッセンスを加えるように紡ちゃんと慧太くんが騒ぎ出して、その紡ちゃんとの関わり方が昔と変わらないことに頬を緩ませた。
桜「まったく、あの2人はいつも騒がしいな」
追いかけっこをするように部屋へと駆け込む2人を見ながら、桜太が嬉しそうに笑っては、また、空を見上げて目頭を押さえた。
泣いちゃダメだって言ったのに。
そう思いながら私も空を見上げて、こっそり神様へと願う。
どうかこの人に、希望の光を注いで下さい・・・と。
その願いが届いたのか、またひとつ星が流れる。
桜「約束、だったよな・・・」
ぽつりと呟いた桜太の言葉に重なるように、部屋の中からは賑やかな声が届く。
「だーかーらー!もうヒゲの話はいらないってば!!」
慧「愛聖が先にヒゲヒゲ言ったんだろうが!」
「もういいって言ってるじゃん!しつこいと女の人に逃げられるよ!」
慧「なにィ!逃げられるなにも、美女がオレサマを放っておくわけねぇんだよ~!ほら、捕まえた!」
「嫌だ!ホント無理!離してってば!・・・桜太にぃ助けて!」
ほら、桜太?
あなたの大事なお姫様から助けを求められてるよ?
クスクスと笑いながら見つめれば、桜太はグラスの中身を一気に飲み干し、リビングの入口を開ける。
桜「慧太、紡、2人ともいい加減にしろよ。何時だと思ってるんだ・・・」
「だって慧太にぃが!」
慧「またオレかよ!」
桜「ふたりとも!」
「はーい・・・」
慧「へいへい・・・」
叱っているのに、その口調も表情もとても穏やかで。
そんな姿も、あの頃のままだと記憶を懐かしむ。
月日の流れが人を変えてしまうと言うけど、この場所だけはあの頃のままで、つい、戻りたいと思ってしまう。
それは絶対、叶わないと知っていても。