第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
なに、これ・・・
私はここにいるのに、なぜ私がベッドで眠っているの?
私の手を握って泣き崩れている伴侶と。
ドクターの指示を受けて忙しなく動くナース。
リズムを刻まなくなった心電図モニター。
そうか・・・・・・私・・・・・・
・・・・・・そういうこと、なんだ・・・・・・
いつまでも目を覚ますことのない私の名前を呼び続ける人を抱きしめるように、そっと身を寄せる。
私を愛してくれて、ありがとう・・・と。
そしていつかアナタが、本気で愛し愛される人に巡り会えることを・・・遠くでずっと、祈ってる。
ベッドの脇に立ち、眠っているような自分を見つめる。
あれだけ苦しくて、もがいていたはずなのに。
その顔はなぜか穏やかで。
・・・安らかで。
あと、どれくらいこの世にいる事が出来るんだろう。
私の体が、灰になるまで?
それとも、土に還るまで?
もし、出来るなら。
最後に、もう一度だけ会いたい・・・
そう思ってしまうのは、我儘なんだろうか。
神様?
もしもアナタが本当に存在するならば。
どうか私を・・・あの人の元へ・・・
話せなくてもいい。
触れることが出来なくてもいい。
だからどうか・・・お願いします・・・
願いながらそっと目を閉じると、私を包む空気が変わった。
フワリと髪が揺れて、さっきより少しばかり湿度の高い空気に触れて、目を開ければ・・・そこは随分と懐かしい、見覚えのある建物の前で。
ここって・・・確か・・・?
「どした?寝たんじゃねぇのか?」
「こんな時間に寝るほど、子供じゃないよ」
この、声って・・・!!
「ごゆっくり、な・・・桜太、コレ持ってけ」
これは、慧太くんの声で・・・
「コレに頼る事がないようにするよ」
これは・・・・・・
確認するまでもなく・・・桜太の・・・
いたんだ・・・ちゃんと、神様って。
そんな事を考えながらも、込み上げる思いと、溢れ出す涙で胸が詰まる。
ひと目でいいから・・・少しだけでいいから・・・
そう思うと、いても立ってもいられずに門をすり抜けてリビングから続くウッドデッキへと近づいて行く。
「慧太のやつ、変に気を使ってくれて」
カラカラと静かな音をさせながら、今まさに会いたいと願っていた人が姿を見せた。