第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
「・・・さ・・・・・・ずさ・・・あ・・・ずさ・・・梓・・・」
どこからか、私を呼ぶ声が聞こえて来る。
ずっしりと重く閉じたままの瞼を少しずつ上げていくと、そこに見えた物は・・・
真っ白な天井と、そして聞こえて来る機械音。
ゆっくりと瞬きをすると、近くで人の気配がして目だけでその気配を辿る。
薄ぼんやりと見える姿は、徐々に現実味を帯びて来て。
やがて、ハッキリとその姿を認識する。
「梓・・・良かった・・・目が、覚めたんだね・・・」
涙混じりの声で私の名を呼ぶその人は、私が愛した人ではなく・・・これから愛していこうと決めた人でもあり。
『懐かしい、夢を・・・見てたみたい』
そう言って微笑むと、何も言わずに・・・ただ、頷いてくれた。
桜太・・・私はこの人と、どれだけの時間があるか分からないけど、それでも未来へ歩いて行くから。
だから・・・いつかきっと、また出逢える日まで・・・私を忘れないで・・・?
新しい幸せのカタチを探して、掴んで・・・
『・・・生きるから』
痺れが残る手を天井へ向けて伸ばせば、そっと手を包んでくれる温かさがある。
「梓・・・ありがとう・・・」
自分の弱い部分を私に初めて見せてくれるこの人は、きっとこの先もずっとずっと、私と、それからまだ見ぬ小さな命に寄り添って歩いてくれるだろう。
誰かの命と引き換えに、私に希望を見せてくれる部分に、そっと手を当てて・・・見知らぬ誰かに感謝する。
「・・・痛むか?」
『大丈夫・・・ただ少し、眠くて・・・』
「そうか・・・これからの為に、今は出来るだけ体を休めなさい・・・時間ならたくさん、あるはずだからね」
キュッと私の手を握り、そっと離す私の伴侶に微笑み返して、私はその言葉に甘えるように静かに目を閉じた。
それから、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
自分の体が、バラバラになりそうな痛みと、深い深い水の底へ引き寄せられる感覚に意識が混沌とする。
苦しくて、苦しくて、もがいて・・・漸く自分の目に映す事が出来た光景は。
自分が横たわる姿を、客観的に見ている自分の姿だった。