第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
数年ぶりに会う桜太は、あの頃と全然変わってなくて。
ひとつひとつの仕草を見る度に、あの頃の甘酸っぱい記憶が胸を埋めていく。
桜「突然連絡くれるなんて、驚いたよ」
『ん・・・まぁ、ね。実はね、少し前に・・・』
桜太に、散歩中に立ち寄った体育館での事や、その彼らとの出会いは前にも会ったことを話していく。
『それで、なんだ彼たちの姿と桜太のバレーやってる時の姿が重なっちゃって・・・懐かしいなって』
そっか・・・と桜太が小さく言って、香り立つカップに口を付けた。
『桜太はちゃんとお医者様になったんだね・・・凄いなぁ、目標を叶えるとか。私なんて全然だけど』
桜「梓も、ちゃんと夢は叶えてたんじゃないの?慧太が偶然会った時には、確か・・・」
『その頃だけは、だよ。その後いろいろあって』
私が言葉を切った事に、桜太は何も聞かず時計に視線を流す。
あの頃、桜太と別れてからは自分のやりたかった事にだけ夢中になって。
仕事・・・と呼べるくらいには報酬も貰えるようにはなってた。
そんな頃、画材を揃えようと買い物に出た時、バッタリと慧太くんに会ったんだ。
昔と変わらない感じで声をかけられて、せっかくだからとお茶に誘われ・・・その時、私が知らなかった事実を慧太くんから聞かされて。
――――― あの日。
私が街中で見かけた桜太は、その日にやっと取れた時間で私に会いに行こうとしていた事。
けど、同期の友達が研究室から離れられない事態が起きて、その人が妹さんとの約束があるのに守れず困っていて。
たまたま通りかかった桜太が、頼み込まれて。
最初は断っていたけど、困り果てている友達を遂には断りきれず、代わりに映画を見る事になってしまったと言うこと。
相手が友達の妹だと言うことから、食事も付き合って自宅まで送り届けたと言うこと。
慧太くんから聞かせれた話が、何もかも私が知らなかった事で。
桜太が・・・話してくれなかった事、で。
もし、全てを話してくれていたらなにか変わっていたかも知れない。
ううん・・・きっと、違う。
あの頃の私は、それすら受け入れる事が出来なかったと思うから。
だから桜太は・・・なにも言わずにいたのかも知れない。
もし、それでも話してくれていたら。
そしたら私は・・・どう変わっていたんだろう。