第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
『うん・・・まぁ、ちょっとね。実は私、今度大きな手術をする事になってて・・・でも、それが正しい選択なのか、凄く悩んでて。だから、メソメソついでに実家に駆け込んでたんだけど、今日・・・2人に会って、気持ちの整理がついたの。及川くん、岩泉くん・・・ありがとう』
精一杯の笑顔で言えば、岩泉くんは、そうか・・・とひと言だけ呟き、及川くんは私がしたのと同じようにギュッと私を抱きしめて、背中をそっと叩いてくれた。
及「また、試合見に来てよ。その時は今度こそ、カッコイイ姿でキメるからさ?」
『期待してる』
岩「及川の姿がどうなろうと、絶対また・・・見に来いよ」
『うん。見に来る・・・あ、そうだ!キラッキラの素敵なお姉さんから2人にアドバイスがあるの。あのね・・・ちょっと耳貸して?』
大事な物があったら、それは絶対に手放したらダメだよ?それが夢でも、目標でも、人でも、どんな結果になろうとも・・・ダメ、絶対。
さり気なく過去の自分の苦い経験を織り交ぜて、私の高さに寄せられた2つの耳に届けた。
及「岩ちゃん・・・?」
岩「・・・だな」
話し終わると彼らは顔を見合わせて小さく笑い、私に向けてそれぞれが片手を上げる。
『えっと、なに?』
その意味が分からずにいると、及川くんは笑いながら、約束のハイタッチ!ほら早く!と手をヒラリとさせた。
『ハイタッチって言われても、2人とも背が高いんだから届かないってば!』
もう!と頬を膨らませながら言えば、2人も笑いながらその手の高さを少しだけ下げてくれる。
パンっ!と高い音を響かせて、2つの大きな手に自分の手を重ね合わせる。
『2人とも頑張ってね!・・・バイバイ!』
岩「・・・あぁ、またな」
及「またね!キラッキラのお姉さん」
建物の入口へと向かう私をずっと見送ってくれる2人に、最後に両手を大きく振って私は背中を向けた。
それが私が最後に見た、彼らの姿でもあった。
それから少しの月日が経ち、いよいよその時が来る事を知って・・・私は、旅立つ前にどうしてもあの人に会っいたくて。
あの日からずっと消すことが出来ずにいた電話番号を指で辿り・・・
「もしもし・・・・・・梓・・・?」
懐かしい声を、聞くことになった。