第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
試合が始まる前にロビーで及川くんが言っていた言葉は崩され、強気な発言とは違う及川くんの俯いた姿が妙に印象に残る結果となった。
そんな及川くんの背中を叩き、顔を上げて前を向かせる岩泉くんの姿もまた、印象的で。
いろんな気持ちが交錯して、気がつけば涙が溢れてしまっていた。
そして・・・
違う結果に結びついたのは彼らだけではなく。
その彼らの姿に胸を打たれて、私も・・・私も顔を上げて前を向かなければと、そう、思えるようになっていた。
しっかりと閉会式まで見守って、退場して行く彼らを見てから私もロビーへと向かう。
なにか、かける言葉はあるだろうか。
あるとしたら、なんて言えばいいんだろうか。
そんな事を考えながら歩けば、2人が揃いのユニフォームを着たメンバーと荷物をまとめている姿が見えた。
声を掛けようと足を向けたと同時に2人が振り返り、悔しげな表情が残る笑顔で及川くんが私に手を振った。
それを見て、考えるよりも先に彼らの元へと私は駆け出した。
及「今度こそ、勝てると思ったのに・・・」
お疲れ様・・・と声をかけた私に及川くんが言った言葉を聞いて、そのままギュッと私より遥かに大きな体を包み込む。
一瞬ピクリとして硬直した背中をぽんぽんっと2回叩いてまた抱きしめれば、戸惑いながらも及川くんは私の背中に手を回しながら、何も言わず肩口に顔を埋めてきた。
少し離れたところから、キャーキャーと女の子たちの悲鳴が聞こえるも、及川くんの気が済むまで・・・そのままにしておいた。
及「せっかくの再会だったのに、カッコ悪いトコ見せちゃったよ」
スン、と鼻を啜りながら呟く背中をゆっくりと撫でて、カッコ悪いだなんて思ってないから・・・と笑って見せながら、その体を解放した。
『ほら、岩泉くんも・・・おいで?』
岩「は?!いや、俺は別に・・・」
『いいからいいから』
岩「あ、おい!」
顔を強ばらせて抵抗する岩泉くんに自ら抱きつき、及川くんと同じように背中を叩いて、すぐに解放する。
『凄く、いろんな事を考えさせられる・・・試合だったよ?メソメソいじけてた私を、突風で煽ってくれる位の凄くいい試合だったと思う』
肩を竦めながら笑って言えば、そんな姿を見た岩泉くんが私の前に1歩出る。
岩「アンタ、なんかメソメソ悩んでたのか?」