第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
そんな出会いから数年経ち、大学を卒業すると同時に、父から勧められるままに・・・父が見つけた相手と私は縁談を進める事になった。
その相手は父の取引先の人で、まだ私が学生の頃からずっとそんな話をされてはいたけど、私には当時、それこそ桜太がいたし聞く耳持たずな状態でいた。
けど、正式な話が出た時には、その桜太もいなくて。
父や周りの大人達に流されるままに、大きく年の離れた相手と・・・自分の人生を決めてしまった。
もちろん、伴侶となるわけだから愛そうともした。
求められれば応じて、仕事関係の集まりに同行しなければならない時には、それ相応の身なりを整え、これも私の選んだ生き方なんだと、無理に笑って。
もし、子供でも出来たら少しはそんな窮屈な生活も変わるのだろうと思い続けても、なかなか子宝には恵まれず。
夫婦で密かに、病院で受けた検査。
数日後にひとりで結果を聞いて、愕然とする。
なかなか子宝に恵まれないのは、私の体に問題がある事が分かって・・・ショックだった。
自分はもう年だから、子供は早く欲しい。
男の子でも。
女の子でも。
何人でも欲しい。
そう言っていたあの人に、なんて言えばいいの?
どう言ったらいいの?
足取り重く帰って早々に結果を尋ねられ、全てを正直に打ち明ければ、そこに慰めの言葉も、暖かい言葉もなく。
子供が産めない体だと分かっていたら、結婚なんて望まなかった。
跡継ぎが欲しかったのに。
そんな言葉ばかりが矢継ぎ早に吹きかけられた。
絶望の縁に立たされてから会話も減り、寝室も別となり。
いよいよこの生活が終わりに近付くんだと思った、ある日。
私に告げられた言葉は・・・
「私はどうしてもお前との子供が欲しい。だから、移植手術を受けてくれ。準備はいろいろして来た・・・あとは、待つだけだ」
そんな、言葉だった。